泣き面に蜂


2004/04/27

自転車は凄い。

何が凄いかっていうと、まず一駅分電車で移動するくらいなら自転車で移動したほうがよっぽど早いし、街の中を移動するなら車やバイクなんかよりも断然自転車のほうが早い。また、自転車は車輪がついているにもかかわらず、公道のみならず歩道までも占有スペースとし走ることから柔軟性にもすぐれている。信号にぶち当たることもめったになかったりするのが自転車。それに無料(タダ)ってのもかなりイイ。

そんな飛び抜けた性能を持っている自転車にも、雨という最大の敵がいたりするわけだ。

自転車と傘。このような器用な運転が出来る人間ならば問題なくその移動性を発揮することができるだろう。だが俺のようなどうしようもないダメ男が乗ってみてはどうだろうか?右手のみでハンドルを扱うことへの恐怖。右手だけということで、左についている呼び鈴が鳴らせないというさらなる恐怖。傘が風に煽られて飛んでいきそうになったりだとか、微妙に水溜りをかわせなかったりだとか様々な事件が俺を襲うのである。

そうなるとかなりスピードが落ちる。坂道だって手押しじゃないと進めなくなるし、逆に下りの坂道だって傘が風に煽られる恐怖からゆっくりブレーキなんかをかけながら伸張に下降する。右手のみしかハンドルを握っていないせいで、それはもうガクガクと震えながらすすむもんだからいつ倒れてもおかしくないような速度。一駅くらいなら電車より早いなんてウソ。信じられないくらいに遅いのである。

けどもまぁ今更電車に乗って出勤しようだなんて性に合わない。たしかに電車に乗って新聞なんぞを見ながら流れる外の景色を眺めるなんていう優雅な朝もかなりアツい。毎日同じ車両に乗ってる女の子と運命の出会いを果たすトキメキありな事件も可能なわけで、雨にぬれることなく目的地まで行ける。そんな電車は素敵だ。素敵すぎる。だが、定期なんていうそんなカッコいいシロモノを手に入れていなければ、始発の時間すらも把握できていない俺が、電車に乗ってかっこよく出勤なんて果たして許されるのだろうか?そう思えば思うほど夢は遠のくばかりなのだ。

そういった具合で、まるで頑固親父の如く、雨の日も堂々自転車出勤を果たしているわけだ。もう何かに取り付かれたかのように、自転車に殉教している俺。こんな俺を誰にも止めることなどできねぇはず。



今日も俺は自転車で出勤していた。外は雨だったが。

朝起きて優雅に牛乳なんぞをを飲みながら外の景色を眺めれば、外は有り得んばかりの豪雨。横から雨が降っているといわんばかりの豪雨。その景色を眺め一人俺は憂鬱な目でそれを眺めているのだった。

しかしそんなもんにも腹を立てないのが心の広いヒロさんです。あのな、これだけ自転車出勤してたら自転車に雨なんていうシチュエーションは有りまくりな訳ですよ。たかが雨くらいのことで激しく騒ぎ立てるような素人じゃねぇ訳ですよ。っとまぁ内心込み上げてくる怒りを力いっぱい押さえ込みながら、それはもうやる気満々の表情で外を眺めるのであった。朝飯早く食えば間に合うんだよ。これくらいの雨は!!

さてさて毎日このHPを読んでくれいてる誠意のある読者なら察されている通り、俺は雨とサッカーというシチュエーションは大好きなのである。サッカー観戦ともなると非常にアンニュイな気持ちになれる私ヒロですが、土砂降りの雨の中びしょぬれでサッカーをするというのはとても粋なやり方だと思い非常に好きな訳ですよ。

そんな俺ですから、自転車も傘ささずにつっこんでやろうかと思ってみたのですよ。土砂降りの雨、その中を自転車で突き進むという行為にエクスタシーを感じ、恍惚とした表情で水溜りをつっぱしる。そんなやり方も雨の日のサッカーに似て非常に粋だなぁなどと思ってみたのです。

けどもまぁ俺もそろそろ大人。世界のミスターと呼ばれる(煽られる?)ほどのジェントルマンなこの大人ヒロさんがですね、雨の中ぬれながら出勤なんていう今時高校生もやらないような非道な手段使えねぇ訳よ。ジェントルマンはジェントルマンらしく、シュールに傘をさすのが一番。そんなわけで苦手な「傘と自転車」に挑戦してみることになったのでした。



今日は7時出勤。にもかかわらず、前日はバリバリ11時まで働いていた俺。なんちゅう労働条件やねんと訴えたい気もモリモリ沸くのだが、職を失いたくないという事実が目の前を埋め尽くし、その心理を利用してどんどん過酷な労働条件を強いてくる会社側。それに怯むことなく俺も頑張ってみた次第だが、あきらかに警報といわんばかりの雨に睡眠不足がたたり、目を開けるのも精一杯いつ意識がどんでもおかしくない。雪山で遭難したようなそんな切ない気分にさせられたのでございました。

睡眠不足+豪雨自転車という苦行に耐えながらも、仕事に生きる俺って凄いと思った。ドラマになると思った。映画化とか問題なくできると思った。

長く険しい困難な道を乗り越え、やっと到着した俺。そんな俺の目には、固い決意の炎が燃え上がっていた。これだけの苦行に耐えてここまでやってきたのだ、どんな仕事だってやり遂げてやろうという熱い想いがいっぱいだった。こんなに仕事に燃え上がったの多分初めて。

「おはようございます」朝7時前、気持ちのいい挨拶が事務所に響き渡る。

だが、帰ってきた返事は予想外だった。


「あれ、ヒロ君なんでいるの?今日キャンセルやで。帰りーや。」


事務所にいた事務のお姉さんはそれはもう素敵な笑顔でそう言ったのでした。俺の今までの苦行を知ってか知らぬか、それはもう満面の笑みで俺に冷たい言葉を言い払う。沸々と燃え上がる仕事への熱意は、沸々と燃え上がる怒りへと変わってゆく。

燃え上がる怒りを訴えようと、携帯電話を取り出したところ、画面には留守番電話一件の文字が!!

おめぇいつ留守番電話入れたんだよ!っと言わんばかりに留守番電話サービスの文字が画面の隅っこでその存在をあらわにしている。

急いで留守番電話を聞いてみたところ、いつもと同じ機械のオペレーターの声が聞こえる。


「・・・最初のメッセージ。4月27日1時21分。
お疲れ様です。明日の仕事、キャンセルになりました。折り返しご連絡お願いします」


いやいや明日ちゃいますやん。日付変わってますがな。

あきらかに嫌がらせといわんばかりのタイミング。あいつ連絡ミスったんじゃねぇのか!!許さねぇ!などと口々に文句を言いまくった俺だったが、確かにキャンセルといっているのは事実。隠しようもない事実。いくら非常識な時間とはいえ、キャンセルとしっかり証拠を残しているのは事実。コレに対して訴えることなどどうあがいてもできない。どう考えても責めることなどできない。

だが、明らかに起きていないような時間帯に連絡入れるというなんともありえない手段で俺を陥れた会社側。なんともいえない割り切れない思いばかりが俺の胸を支配し、ただただ怒りを訴える場所が無かった俺は、俺なりのやり方で怒りを形にしてみるのでした。


「・・・最初のメッセージ。4月27日6時59分
お疲れ様です。明日の7時の仕事キャンセルですね?了解しました。」


まさに夢の中と言わんばかりの時間帯。そんな時間に携帯を鳴らしまくり、留守番電話に折り返しのご連絡を入れてやったのでした。土砂降りの雨の中突っ走ってきた俺なので、それはもう全身びしょぬれ。そんな自分を全く意識することなく、満面の笑みで早朝電話してみたのでした。一種の嫌がらせ。

こんな苦しみもあと一ヶ月。一ヶ月すれば、こんな仕事ともおさらばできるのだ!!そんな思いを秘めながら、土砂降りの雨の中を家に引き返すのでした。

今度は傘を海に投げ捨てて、土砂降りの中びしょぬれになりながら走る俺。紳士で有り続けたいという俺の想いも空しく、怒りに身を任せ、さっきとはまた一段と違う恍惚とした表情で家に向かう。こんな俺を誰にも止めることなどできねぇはず。



泣き面に蜂。このような素晴らしい言葉を昔の人は考えた。

不幸で不幸で、悲しさの余り泣いてしまった男の声を聞き、エクスタシーを感じた蜂が恍惚とした表情で襲いかかる。不幸へさらに襲いかかる不幸。泣き声に反応してしまう蜂の神秘。これを凄い視線で捉えた、ドラマのあるなんとも響きのよい言葉だと思う。

今日の俺は間違いなくそれだ。

蜂蜜を思いっきりぶっかけられ、泣いている俺に蜂が襲い掛かるというなんとも計画的な不幸。雨はまだ泣き止まないが、俺は泣き止もうと思う。襲いかかる蜂をしっかりこの目で捉え、北斗百烈拳類の技で不幸をやっつけれるような男になろうと思う。

そう決意を固めたのもつかの間、突然の会社からの電話。


夕方から仕事あるの忘れないでね


雨に体温を奪われ風邪を引いてしまった体に、さらに仕事という蜂が襲いかかる。

泣き面に蜂。この定義は変える事が出来ないみたい。

俺、仕事大好き☆



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