自転車買いました。

2004/04/04

みなさんはXO醤って名前の調味料を知っているだろうか?

中国のレストランのシェフが作って、あまりの美味しさにブランデーの格付けの中でもかなり高いXOって名前を使った。けどね、みんなこの調味料見てXOってのが一番格付けでは上って思い込んでるみたいだけど実はそうでもない。本当の一番ってのは実は「ナポレオン」っていう格付けだったりする。

しかもその「ナポレオン」っていう格付けのついたブランデー、巷の酒屋では簡単に見ることはできない。「XO」って書いてるブランデーならけっこう置いてたりするが、「ナポレオン」という格付けのついたブランデーはあまりにも格が上すぎてどこの酒屋さんでも見ることはできない。それぐらい高いレベルのブランデーなのである。

ナポレオン。まさに極上のブランデー。至上最高のブランデー。俺は今日、その「至上最高」であるナポレオンに匹敵するレベルの物を見つけてしまった。



しかもダイエーで。


偶然にも自転車の安売りセールなんていう一代イベントを開いていたダイエー、そこにお買い物しに来ていた俺は偶然にもすごいものを見てしまった。

その出会いは本当に突然だった。俺と同じく安くて質の良い食材を手に入れようとダイエーにお買い物しにきた主婦たちが物凄い勢いで無視して通った自転車安売りセールコーナーで、まさに運命の出会いと言わんばかりに出会ったその自転車。それはあまりにも安く、同じ形をしたモデルでも最後の最後まで残り今まさに売り切れる寸前といった状態でたたずんでいた。しかも同じ型の自転車の中でもその自転車だけは初期装備されている筈の鍵が一切搭載されていないといった具合で激しく劣等感漂う商品。その挙句、鍵がついていないのにもかかわらず、鍵が付いている自転車と値段がまったく同じというどこまでも状況の悪すぎる環境。もはや誰も目を向けないのも無理が無いといった商品なのにもかかわらず、俺は瞬きもせずそいつを見つめていた。ただ黙って、そいつだけを見つめていた。

正直言って俺が店員なら間違いなくお勧めしない。たいして目立った機能もなく、なんとかギリギリの予算で組み立てましたっていわんばかりの軽い軽い車体にしょぼいしょぼい機材。自転車に乗ったことの無い素人が見ても、そのしょぼさぶりは一目瞭然である。どこからみてもショボイムードの漂う自転車、そんな自転車に俺は恋をしてしまった。普通の女性に対してもめったに一目惚れしないこの俺が、息弾ませ胸をドキドキさせ目をつぶれば思わずそいつの車体が焼きつくように眼球に映る、そこまでに恋をしてしまった。

なんだろうか、いわゆる女性の持つ母性本能的なものがくすぐられてしまったのだろうか。自分に良く似たこの劣等感。見た目だって冴えないしだからといって頭も良くない、それにスポーツだってイマイチ。そんな俺にどこまでに似ている劣等感漂う風格。もしかしたら、自転車に自分を重ねてしまって、見れば見るほど愛着がわいてしまってるのかもしれない。あまりにも値段の割りに劣る風格、それでも俺の欲しいという決意は固かった。なんとしても、欲しいと。

俺はすぐさま、三井住友銀行に向かった。

正直言って今月の俺って言ったらかなり金は無い。パソコンだって壊れたからパーツとか買いまくったし、しかも「この際だから電源も変えてしまおう♪」なんてルンルンで高い高い電源とか購入して財布はおろか通帳から直接お金が流れていく。その挙句、友達が携帯電話屋さんで働いてていつになっても営業成績が伸びないだのダークな話を持ちかけられ、勿論熱い熱い人情を持ち合わせたこのヒロさんだから拒否なんて一切せず購入。その他電気ガス水道代に新聞代その他もろもろ、なぜか今月は全部肩代わりしてしまったこの俺なんです。そんなもん赤字ですよ。どう考えたって給料日までおあずけですよ。しかしそんなことはどこへやら、無意識のうちに俺は三井住友銀行のキャッシュカードコーナーにいた。

けどもまぁ、お金を下ろす瞬間はマジでためらった。そこに着いてから初めて我に返ったのかもしれない。金欠な自分ってやつを思い出しつつも、今まで貯金し続けた理由ってやつをただひたすらに思い出してたんですよ。しかしその想いも5秒で吹っ飛んだ。今の俺には、あいつしかいねぇ。

前の自転車を失ってからはや半月。自転車を失った瞬間の当時の俺といったら、「もうあと一年位は自転車買えねぇな。」「俺はあいつじゃねぇと心を打ち明けられねぇ」などとまさに絶望的な状態だったが、そんな想いもどこへやら。恋人を失った男の悲しみはは海の底より深いが、自転車を失った俺の心は実はあんまり深くなかったらしい。

颯爽と銀行からおろしたお金を持ちちより、キャッシャーの元へと向かう。

自転車は無事売れていないでそこにあり、難なく購入に成功した。
なんだろうか、この感情は。

なんかね、その自転車のパーツひとつひとつが凄く新鮮なんですよ。ベルとか鳴らしながら「お、結構イケてるやんコイツ」っとかなんか独り言言ってるのよ俺。本当に安い安い自転車を購入したっていうただそれだけなのに、まるで新しい会社に就職した新入社員かのような壮大なスケールで想いが動くんですよ。

新しい故にツヤのあるボディ、新しい故に曲がっていない籠、新しい故に元気にあたりを照らすライト、なんかドキドキしてくるじゃないですか。

この半月間、自転車乗れなかった故に色々苦労した。例えば夜中に緑茶飲みてぇなっとかよく人間思うじゃないですか、けど近くに自動販売機とかないのよ俺んち不便だから。でな、自転車乗ってコンビニまで走るんですよ。酷い時期とか毎晩のように自転車乗ってコンビニ行ったよ。いわば習慣みたいになってた時期だってあった訳。それが突然自転車姿消してみろ。ヒロさん泣きながら夜中の道を歩く。ビデオ屋の前で怖そうなお兄ちゃんたむろしてるけどがんばって目合わせないようにして通過。たかが自転車が無いだけなのに、緑茶一本買うのに冒険しなきゃいけない。

それとかあと通勤。今までは自転車に乗って朝の出勤ラッシュとかものともせず走り抜けてた。それが突然自転車無くなってみろ。めったに見ることの無かった電車の中。しかも出勤ピークで人とかいっぱいいたりして、雨の日なんかになると変なにおいがしたりなんかして臭い。となりのおっさんが新聞なんか読んでて吊り輪とかもって無かったりとかしてみろ。急ブレーキでおっさんが凄い勢いで突進とかしてくるから。もうやになったねこのときばかりは。

そんな悩みからもいよいよ開放される。

ビールが欲しけりゃ最寄のダイエーまで一走り、酒の肴が欲しけりゃ近くのダイエーまで一走り、っといった具合でダイエーがよりいっそ利用しやすくなり、さらにさらにコンビ二なんか通過するときに少し怖めなお兄さんを見ても堂々と直視できる。メリットはでかい。

さて、それだけの物を持ち合わせている自転車なんで、名前のひとつ付けてやろうじゃありませんか。

前の自転車にも「マグナム4号」なんていう気分だけでも早くなれそうなそんなネーミングをつけてやったのですよ。車体を見れば見るほどもっさりと動きそうなムード漂っていたので、名前を聞いた後自転車を見た人のリアクションは相変わらず低かった。「俺てっきりマグナムとかいうからマウンテンバイクかと思ったよ。」「名前もダサいが見た目もダサいのか。駄目駄目だな。」などとどいつもこいつも俺と自転車を小ばかにしてやがる。許せない。

だからね、今回はかなり力を入れようと思った。前回はただの高校生だった俺。今はホテルのアルバイトばかりを掛け持ちしてやりたおすホテルメン。今と昔では環境も違う。きっとかっこいいハードボイルドっぽい名前がつくに違いないとそう期待をして目をつぶり考えてみたんです。



・・・けどね、駄目だったみたい。今も昔も、ヒロさんであることに変わりは無いみたい。



ナポレオン5号


駄目だ。よりいっそう人に言うのが恥ずかしい名前となってしまった。こんな名前を聞いたらきっと友人はとんでもない自転車を想像してしまうに違いない。あまりのスケールのでかさに「ダメだ。ぜんぜん想像できねぇー」などという一声がきてもおかしくない。

しかしあまりにもショボイとはいえ前の自転車よりも微妙にパワーアップしている初期装備。全体的なステータスがレベルアップしたと思えばナポレオンの称号を与えるにふさわしいと俺は感じたのですよ。たしかにそれはダサい。が、乗るといった状況に変わったとき、俺はとてつもないスピードを叩き出しそうな気がする。多分出るね、記録が。

新しく2004年度スタート。
俺はこいつにすべての移動手段を託そうという決意を固めた。


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