ぞうの水

2004/03/21

水道から出てくる水。この水を俺たちは何も考えずに料理につかったり風呂にしたりトイレの水につかったりしている。

だが、俺はこの水には深い秘密が隠されている事を知っている。蛇口をひねれば出るだけのこの水に、本当だったら国全体をあげて隠し通さねばならないレベルの秘密を秘めていたりする訳である。

ことの舞台は丁度俺が小学校3年生の頃。おやつ200円制で遠足に行く事になったんですよ。

でまぁ、普通遠足っていったらそんなもん楽しみで楽しみで前日前夜はいつになっても睡眠に浸れない。入念なチェックを何度もし、お菓子なんかも楽しみの度が過ぎて前日の時点ですでに100円分くらい減ってるもんである。

けども今回はいつものとは一段と違った。なんたってダムの水を浄化して一般の家庭にお届けするとかいうマジ物の勉強施設ですよ。そんなもん面白くないにきまっている。で、前日から全くやる気が無かったんですよ。

けどもまぁ次の日にもなれば、普段の教室の中で引きこもって勉強するのとはまた違って外に出るもんですからみんな大興奮。電車の中では立てだとか先生がんばって注意してもなかなか言う事聞かない。座って待てといえば立って待つ。喋るなといえば喋るなんとも頭の悪い小学生集団。思いっきりバカしながら楽しんでたんですよ。

で、そうこうしながらやっとこさ到着。なんか変な機械とかずっと見るだけだと思っていたが、実際現地に到着するとでっかい記念館というか科学館というかなんかそういった建物がたってたりだとか、大きなアスレチック公園みたいなのがあったりだとか想像してたのとは全然違うのですよ。まさに遠足って感じの場所。思わず手をグーにしてガッツポーズ。これなら少しくらいは楽しめそうじゃないですか。

ここで班に分かれて建物の中を見学しようってな感じになったんです。

5人か6人位で固まって建物の中を歩くんですよ。なんか想像してたよりもすごく子供向けに作られた建物で、結構面白いじゃないですか。なんか水の浄化とかいいながら無駄なところに結構お金かけてるじゃないですか。子供ながらに純粋に楽しんでたんですよ。

冒険心旺盛に建物の中を歩いていると、なにやら不思議な水道を発見した。

説明ボードには「ぞうの水」とかかれていた。

いやはや、凄くあやしいじゃないですか。非常にあやしいじゃないですか。説明ボードいわく、「この水はぞうが飲んでいる水と同じ水です。」ってかかれている。アフリカのジャングルやら草原やらで歩き回っているあの像が飲んでる水と全く同じ成分の水が飲めるとかいう詐欺っぽい企画をやってるらしいのですよ。

けども冒険心旺盛な僕らの班。そんなもんあのビックでジャンボでパワフルなゾウと同じ水がここで飲めるとか大興奮だったんですよ。飲めば寿命が一年くらいは延びるくらいに思ってたんですよ。目の前に置かれたコップ。そして小学生には届きやすい位の場所にある蛇口。簡単にひねれてしまう。

そこで先に手をつけたのはイタズラ好きなY介君ではなく勉強好きなT朗君だったのでした。もうね、どうにでもなっちまえっていきおいで思いっきりひねるんですよ。「うぉぉぉぉーーー」っとか狂ったように声上げてひねる。いきなり発狂気味になった彼に驚きを隠せない。あんなにまじめだったT朗君が・・・

凄い勢いでゴボボボボと出てくるゾウの水。人数分用意されたコップ。ここまできて誰もひきさがることはできない。みんな黙ってコップを水に近づける。さすがにびびってるのか、誰一人として半分以上入れる人が出てこず、慎重に、そして水の色を確かめるようにコップに水を入れていく。

全員が水の入ったコップを手にしたとき、決意が固まった。「いっせいのうでで飲もうな!」

一瞬黙り込んでる俺たち。そして次の瞬間、Y介君が言うのだった。


「いっせいのうで!!」


しかし飲んだのは気の弱そうなH君だけだった。物凄い勢いでぞうの水を飲み続ける彼。誰一人としてゾウの水に口すらつけていないのに、一人黙って黙々と飲み続ける彼。そして飲みきった瞬間、彼は気がついたのだった。「俺は裏切られた」と

みんなはH君の体の変化を微妙に確認している。毒などの症状は現れていないかなどともうなんか人間というよりモルモットを見るような目で見てる訳ですよ。純粋で気が弱いゆえにだまされて生態実験を試みられている可愛そうなH君。しかし、

いつになっても変化は無い。

H君いわく、別に普通の水道水と変わらないとか言ってるのですよ。しかし余りにも不安を感じた彼らは、誰一人として水を飲まず捨てるのでした。この時点で水を飲んだのはH君だけ。

で、しばらくして集合がかかる。中央の広場にあつめられ、今からランチタイムです。

先生から説明が入ります。「みなさんの今いる広場のしたには、大きなタンクが眠っています。その中には、みなさんの家に運ばれる水が沢山はいっています。だからつばをはいたりだとか、汚い水を流したりだとか絶対にしないで下さいね。わかりましたかー?」「はーい」

そう言われて弁当タイム開始。

みんな家から持ってきた親の愛情たっぷりな弁当をほうばる。俺らの班もかたまってベンチ付近で弁当を食べているのでした。

弁当開始丁度5分位だろうか、突然H君に変化が現れた。

H君が苦しんでる!とてつもなく苦しんでる!どうやらぞうの水の毒性は潜伏性だったらしく、今頃になって症状が勃発した模様です。しかしまたゾウの水に毒性があっただなんて、なんてものをこの施設はおいてるんだと驚きを隠せない。

「うぁぁぁ」苦しみ、悲鳴を上げるH君。それをみて不安がる班の男ども。俺らはもしかしたら凄くやばい事をしてしまったんじゃないのかととてつもなく不安になるのでした。だが目の前でH君が苦しんでるのには変わりが無い。なんとかせねばならない。

苦しみの声にまぎれて何か言っている。「ぞ・・・ぞうの水が。。。。ぞうの水が・・・・」みんなはみんなでそんな彼の言う事を聞いていないふり。

そして次の瞬間。ことは起こった。


「げろろろろろろっおえええええぇぇぇぇ(吐」


食事開始5分間で胃に詰め込まれたおかずがモルモルと吐かれる。苦しそうなH君。それを先生がいよいよ発見する。でとてつもない勢いで迫ってくる。「H君!吐いちゃだめ!!このしたにはタンクが眠ってるのよ!!」

しかし吐くなと言われてもですね、苦しんでるのは確かじゃないですか。ぞうの水の毒性で怒涛の勢いで胃のものが出ようとしてる訳じゃないですか。それを素直に吐き出す事ができない、これほどの苦しみがあるだろうかといった次第ですよ。H君どんどん顔色が青ざめていく。

「吐いちゃダメっていってるでしょ!」だんだん怒りモードに突入する先生。だがしかしそれどころじゃないH君。もちろん俺たちの班は全員その姿を直視していたせいで、弁当なんてとてつもなく食べれる状況じゃなくなったのでした。

「げろろろろろろ。おおおおおぇぇぇぇ(吐」

第二波に襲われるH君。全身の力が抜け気っている。「吐いちゃだめぇぇぇぇぇ!」叫ぶ教師。しかしそんな言葉ももはや耳にはとどかない。

けっきょく吐いた原因はゾウの水でもなければ弁当食中毒でもなく、前日から遠足を楽しみにしていたが故に睡眠不足に陥り、体をつぶしてしまったというふがいない理由故の結果だったのでした。

で、この話なんですが小学生の俺らの中では有名になり、今でもたまに会った時笑い話でよくでてきたりするんですよ。H君がゲロを水道のタンクの上に吐いて水道水汚してしまったって。想像しただけで誠にグロテスクな様だが、今となってはもはや笑い話でしかない。

「Hのやつ本当にバカだよな!」っとか本当に10年以上たった今でもバカにされるかわいそうなH君。

子供心で遠足を楽しみにしたゆえに起こった可愛そうな事件、純粋な心があったとはいえなんとも間抜けすぎる事件は、今でもまだまだ現役と言わんばかりの有名なニュースなのでした。

ちなみにこの吐いたH君ってのが俺という事実は有名じゃなくてよかったと心から安心して止まないといった次第です。自分だとわかってても「ほんとHのやつってバカだよなー」とかけなしてみたりなんかして非常に複雑な心境になってみたりなんかするのです。

まぁ水を飲む時は最低加熱しろとそう言いたい。


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