ストリートチルドレン

2004/03/10

実は俺、ストリートチルドレンのような生活をしたことがあった。

っていうのは小学校3年生くらいの頃だったと思うけど、それはもうなんというかどうしようもないくらいのデキソコナイだったのですよ俺は。万引きなんて朝飯前、近くの本屋やら八百屋やらをからかってみたりだとかそんでもってバレてないと思ったらバリバリバレてて親が呼び出し。でもって最終的に俺とか怒られる訳。けどね、そんなもんにもめげず俺はいたずらしまくってたんですよ。

でな、うちの親もそんな俺に愛想つきたらしく、ある日俺が門限をたったの1時間オーバーしただけでなんか怒りの絶頂にたっしてるんですよ。でもって鍵という鍵全部を閉めまくって俺を家に入れてくれない。両親的には俺のことを思ってこそやった行為だったんでしょうね。けど俺にはそんな両親の愛やら想いやら全く通じず、純粋に親に裏切られただとか考えてたんですよ。で、俺は家を出る決意をしたってこと。

本当にバカだったとおもう。だって俺、一人でなんでもできるとでも思ってたんですよ。そんなもん学校ではあんまり友好関係を築かなかった俺。いたずらだって一人でやった。そう、何をするにも一人。なんだって一人。そんな俺がたかが家絶なんてへっちゃら。余裕ですよ。

この当時ってのがまた真冬の中。地面に張り付いて寝る訳にもいかず、寒さをしのげる場所ってのを探す為あちらこちらをうろついてみたんです。そう、最初に語ったこのストリートチルドレン生活ってのは、まさに単純極まりないこんな話から始まったのですよ。

初日はスーパーの裏でなんとか寝場所を確保。目が覚めて腹をすかせた俺は、速攻開店したてのスーパーへ。でもって何故か知らんが卵コーナーの卵がい様に美味しそうに見えたんですよ。

でまたこの時の服装ってのがまたしょぼくって卵以上のものとか大きさ的に盗めなかったのですよ。仕方なしに卵を盗む。でもってスーパー出てしばらく道を歩き、近くの公園に行ったんです。

小さな穴なんかを卵に開けて、その間から中身を出して口に直接入れる。なんか凄くみずぼらしい食べ方ですけどね、なんかこのときの卵ってのが俺にとってはスゲー贅沢な訳よ。本当に贅沢の中の贅沢だった訳。だから全然そんなみずぼらしいとかみたいな気持ちにはならなかったね。

けども当時小3とはいえ、やはり卵だけでは腹持ちしない。で、仕方なしにもう一度何か盗みに行こうと思ったんですよ。

しかし俺も甘かった。俺っていったらしょっちゅう盗み働いてる訳じゃないですか。そのあげくからかったりだとかしてるじゃないですか。だからね、なんかスゲーマークされてんの。もはや立ち入る事すら禁じられてるレベルでマークされてんの。だからね、さっきみたいにそう易々と盗みにはいけない。マジで焦った。

普段の行いが結構悪い方に行ってしまったんですよね。で、俺って言ったら友達もいないじゃないですか。かっこつけて友好関係築いてないとか言ってるけど、実際は逆。誰も俺を相手にしてくれない。なんか俺ってちょっと癖があるわけで。どうもみんなと俺とではうまくマッチできないみたいで。

正直言えばイジメられている、って表現使ってもおかしくない。だから今までイタズラは一人でやってきたんですよ。そんなもんいっしょにやってくれる人がいるんだったらとっくにそいつらとやってますよ。だからね、盗みができないわ友達に助けを求められないわで俺も凄く絶望的な状態になってしまった。

公園のベンチで横になり、空腹のまま何も出来ずただただ空を眺めてたんです。夜になればそれはもう寒かった。けど俺はどうすることもできない。ただこうやって空眺めてる事しかできない。

次の日の朝、俺はやっぱりベンチの上で相変わらず空を眺めてた。少し寒いけど全然気にならない。凄く腹だって減ってるけどそんなことは俺にはどうにもできない。ただただ空を眺める、俺にはこれくらいしかできない。

次の日の朝、俺はやっぱりそこにいた。腹が減って本格的に俺は何もできない。何もやりたくない。なんか俺はこの地球上にいる全てのどんな生物よりも絶望的になったようなそんな気持ちになった。いやな事ばかりを考えながら空を眺めてみる俺。時間は虚しくも儚くも過ぎて行き、いつのまにか家出3日目の夜になっていた。

初日の卵以来何も食べていない俺は意識が朦朧としていた。そんな俺の視界に入ってきたのは、小汚いカッコをしたじいちゃん。年齢は確実に60を過ぎているくらい。

真っ白な髪の毛、それを後ろでなんか紐のようなもので結んでいる。でもって服はもう何年も洗ってなさそうな年季物。靴とかほとんどその機能を果たしていない。

「おい少年。オマエ大丈夫か?」

朦朧とする意識の中、その声だけが聞こえた。そのままそのじいさんに抱え込まれて爺さんの家に連れて行かれた。いや家というより、テント。

まぁ世間一般で言うホームレスっていうやつですね。そんなじいさんに俺は助けられて、なんとか飯食わせてもらった。よくわからない食い物なのかそれすら不明だったのだが、それでも口に入れば十分なお味。で、なんとか意識を取り戻した。

しばらくしてなんとか落ち着きを取り戻した俺にじいさんは言う。「お前、何か俺に言ってみろ。」凄く深い言葉に感じた。

独特の何かってのを持ってるこのじいさんに俺はどんどん魅かれて行き、今まであったこと全てを俺は喋った。友達がいない事。親に裏切られた事。

名前はゲンさん。なんか喋ってるだけで、ただ俺が一方的に喋ってるだけ、そんな感じなのに悩みがどんどん解決していく。

友情と言うものを忘れていた俺は、ゲンさんが好きになっていた。久しぶりの友情ってものをゲンさんからもらってた。

そんな幸せな時間が3日くらい過ぎた頃だろうか、ゲンさんは何かを察したらしく俺に話した。

「オマエは若い、そしてワシはじじい。ずっといっしょにいる訳にはいかない。」

俺は嫌だった。ゲンさんという友達を失うのが怖くて怖くてならなかった。必死になってくいとめた。だがゲンさんは次の日の朝、ここにはいなかった。

まだ近くにいるかもしれない。そう思い俺は探した。しかしゲンさんはどこにもいない。眼に焼き付いたゲンさんの笑う顔。その顔をもう一度この胸に焼き付ける為、俺は今までにないほど一生懸命になった。これほど友のために何かをしたのは初めてかもしれない。

ゲンさんは結局見つからなかった。けど、最後にして俺は大切な事を知った。友のために何かをする。一生懸命に何かをする。こんなこと今までに一度も考えた事が無かったと思う。むしろ、できなかったと思う。

その日からだろうか、俺は人のために何か一生懸命にできるそんな人になろうと決意した。俺はもう友達から逃げたりしない。

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・・・っとまぁこんな凄い話を、居酒屋で友人にカミングアウトされた俺。
通算7杯目の生ビール片手に嬉しそうに語ってましたわ。

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