マティーニ

2004/03/02

人間の欲って本当に怖いと思う。

マラソン選手やら体操選手やらのオリンピック出場選手だってそう。彼らはいつでも自分の限界と戦う。限界が来たとき人間は尽きる。だからその限界を超えないようそれでもってできるだけ限界に近いスレスレのパワーで戦えるように神経をそそぐ。逆に言えばその限界にいくまで出続ける未知のパワーってのに挑戦し続けることに彼らは快感ってのを覚えているのかもしれない。いつでも限界と隣り合わせの世界で生きている。

ボクサーだってそうだ。明日のジョーでも最終回で限界まで力を出し切ったジョーは尽きてしまった。しかしそれを快感にしてしまっている。神秘的だけど俺たち人間には限界を知りたいっていう意欲が生まれつき備わっているものなんだとおもう。それを発揮するかしないかは本当にきっかけ次第。偶然なのか運命なのかわからないけど、本当にきっかけ一つで限界を求めてひたすらつっぱしるのが人間の闘争本能。

限界ギリギリと戦っているときの人間って本当にカッコイイと思う。今の例だけ見てても本当に輝いてるって俺は思う。俺も男だからこういう戦いってのに凄くワクワク感を感じる。俺もこうやってギリギリ限界と戦う真の男ってやつになってみたいと思う。さて・・・話はここで変わるが。

うちの父親は非常に酒豪なのである。

とりあえずどれ位酒豪かって表せといわれても非常に困るといった次第だが、もうとりあえず酒豪。なんせ家に帰らないで毎晩ビール飲んでる。多分家族ネタの多いこのHPでも父親の登場回数ってマジでゼロじゃねーの?っといった具合。それぐらい家よりビールに時間を割いている。

俺も結局は父親の血を引いている。家にお金入れる事忘れてまでビールを飲めるそんな機能が俺の体には備わっていると思うとあまりビールを口にしたくないというのが本音。一度ビールを口に入れると一体どうなるのだろうかという不安があるのですよやっぱりね。

けどまぁ、俺もやっぱり仕事してる訳で。タバコはやらないって昔から心に決めてる俺だから上司やらの付き合いはやっぱりビールなんですよ。盃を交し合って仲を深める。もうこれしか無いのですよ。だから仕方なしにビールを口に入れる。

本当に付き合いだけで終わらせようと思っていたビール。それがある日のこと、いつもと違うのみ口、いつもと違う喉越しにいきなり俺は爆発してしまったんですよ。何かすごくビールがうまいのですよ。そのときの俺の飲みっぷりといったら間違いなくCMに出れちゃうような勇ましくそして美味しそうな飲み方してたと思う。泡ヒゲとか難なくやってのけたと思う。

で、ビールフリークというかビールふぇちと化した俺はみるみるうちに父親の野生魂が目覚めていくんですよ。気が付いたら傍らにはビールがいて、もはやビールがないと一日を終わらせることができないようなそんな毎日。毎日毎日ビールばっかのんで、18にしてビール腹になる勢いでモリモリとたらふく飲み狂ってたのですわ。

その勢いは日に日に増して行き。ちょうど2缶が不満と感じた位に俺はさらに違うアルコール摂取の手段に手をつけた。ジンとかウォッカとかテキーラとか、いわばアルコール40を越える強豪スピリッツ集団。

最初は色々なもの入れて割って、お洒落でフランクなカクテルとかそういったので飲んでたのですよ。だが俺の酒豪はとどまるところを知らず、気が付いたらロックとかで飲んでるのですよ。もはやアルコールを直接飲んでるような領域で飲むんです。もはやそこまできたら酒を味わうというより、酒を摂取するといった領域。サルがお自慰を覚えたかのように、狂ったように酒をやってたんです。

けどまぁ俺にはそれでもひとつだけ強みがあった。そこはまさに親父の血。何杯飲んでも意識は飛ばないし少し足がふらつく程度でほとんど自分に変化を感じない。で、俺もだんだん調子に乗ってくる。俺まだまだいけるんじゃないのか?っとか馬鹿なこと考える。

ここで俺の闘争本能が騒いだ。なんというかね、限界を求める欲って奴が俺の心を騒ぎ立ててるんですよ。なんともいえないゾクゾク感というか快感というか。限界を見たとき人は尽きるって分かっているけど、それでも限界は見てみたい。もうここまできたら周りとか見えない。

気が付けば俺はローソンに向かってた。で、自分の口座から2万円下ろしてた。今日は珍しく夜勤が無い日だ。チャンスがあるなら間違いなく今日しかない!俺の中でものすごい闘争心が燃え上がってた。

「マティーニはバーテンダーを映す鏡。見習いのバーテンダーはよくマティーニを飲みながらバーをはしごして回るのが定番だ。」っとかいうカッコイイ言葉を偶然この時期耳にしてたんですよ。ほらもうなんというかかっこいいじゃないですか。なんというかドラクエ3とかと張り合えるレベルでカッコイイ伝説じゃないですか。こんな遺言があるっていうならそんなもん勿論俺もやってのけようじゃないですか。

でな、俺は別に見習いバーテンダーでもなければお酒を飲める年齢ともいいかねる訳ですよ。けど俺の心はもう勇者になってた。伝説を打ち砕く勇者のように熱く燃え上がってた。で、剣(2万円)を抜き、悪(マティーニ)を倒しに勇敢に立ち向かってた。

一軒目。そこはなんかカフェのようなムードのいいバーだったんです。で、とりあえず同じカクテルは2個ルールってのがこの業界の掟らしいので、2杯マティーニを頼みゴクゴクと飲み乾したんです。もう凄い勢いでムードも演出も微塵とない状態でほぼ一気飲み。中学卒業。料理人→会社員→バーテンダー。っというとてつもなくドラマチックな人生を歩んできたバーテンダーに一瞬気を止めかけたが、なんとか振り払って店を出るのだった。

二軒目。なんか下手したらヤンキーの集まりみたいなバー。トランプゲームに負けて危うく三杯目を飲みかけるという恐ろしいバー。独特の軽いノリで俺をここのバーに沈めようとかかってきたがここは男ヒロ。負けてたまるかと必死の想いで振り払いやっとこさ次のバーへ。

三軒目。なんか髪の毛真っ白の年季とかめっちゃ入りまくったおじいちゃんが生きるか死ぬかのカクテルを繰り広げる。で、食べれもしないナッツとかめっちゃすすめてくる。もちろんおじいちゃんと孫トークなんか繰り広げれるテンションなど到底持ち合わせてない俺は、2杯きっちりいただいて軽がると店を後にするのだった。

四軒目。そろそろ足に異常がでてきつつある俺の脚に高すぎる椅子は困難極まりない。何度かトイレに行きたい波が襲ってきたが耐えて耐えて、2杯のマティーニを口にしたときに椅子を降りる。なんか風俗崩れの人とかがバーテンダーに泣きながらおしゃべりするようなそんなバーだった。で、マスターもまたまたかなりカリスマっぽい。もちろんそれ相応にかなりしぼりとられました。もうこねーよ。

五軒目。えらく家庭的なバー。っていうか程よくスナックに近い。さすがに気高きかつ美しいお姉さま方々に大人のサービスなどしてもらえることはなかったのだが、今にも前劇のひとつでもはじめそうな隣のカップルやら妙に怪しい男二人組みなどだんだんこの店の嗜好が見え隠れしてきて怯えを隠せないといった次第でした。2杯飲んでさっさと消えたのだが、もう一度興味半分で行ってみたい。たぶん次回は俺も餌食だ。

六軒目。そろそろ恐ろしいレベルの睡眠欲が俺を襲ってきた。が、そんな俺の目を一気に覚めさせたのは間違いなくここのバーテンダー。なんという美しい女子。だまってマティーニを差し出す女子。そのマティーニがまた濃くて濃くて一瞬フラっとくるがこれは恐らく女子への胸のときめきだと信じておこう。

七軒目。俺は生きるか死ぬかの戦いをしていた。そろそろ近づきつつある限界。そんな俺を見てすぐに察した男前バーテンダーが水をくれた。気の利いたバーテンダー。思わず惚れそうになった。いや俺が女なら間違いなく惚れ狂ってる。。マティーニを一杯頼み、それを飲み乾したとき、俺は限界に達した。

く、口が!

思わずトイレに入った瞬間便器にしがみつく形になった俺。救急車を呼ぶレベルにまで達した俺。しかしなんとかそれを乗り越えて、トイレを出る。

口から放出したおかげでかなり楽になった俺。お金を払いさっきの苦しみはどこへいったのやら。もう全然平気。もう一軒いけるノリ。

けどもまぁここで資金も底をつきかけているといったところ。そろそろ家に帰ろうと思ったのですよ。まぁ一瞬でもあの苦しみを味わったわけじゃないですか。味を覚えるどころか、もはや注射器でアルコールを直接血液に流し込んだようなそんな飲み方をしていたわけじゃないですか。だからこれ以上行っても無駄だとか変に落ち着いてそんなこと考えてたんですよね。

自転車に乗ってさっそうと俺の家に帰ろうとした時。思ったよりフラフラしてなくて驚いた。だってあんなに飲んでたんですよ。いくら口から放射したとはいえアレだけの量が俺の体の中に入ったのですよ。携帯電話だってジンの臭いが染み付くくらいに飲んだのですよ。

そう油断したのが甘かった。

いきなり俺の脚はふらつきハンドルを持つ手が歪む。普段軽々と越えている道がすげー難いのなんの。

ここで助走をつけないとあの大きな坂道を登れない。そう思い思いっきりダッシュしようと自転車の上で立ったとたん。いきなりバランス崩して柵にぶつかって俺も自転車も2回転半くらいまるで空中ブランコのように華麗に空中を舞った訳です。

そこからが大変だった。面白いくらいに痛みを感じなかった俺は、左手からめっちゃ血出てて痛いにもかかわらず、「あ、気持ちいい。このまま俺寝れるかも」っとか吹っ飛んで地面に着地したそのままの状態で訳の分からないことを考え始めたのですよ。当時っていったら真冬のまっただなか。ただでさえ寒い時期なのに真夜中地面に張り付いて居眠りですよ。もうね、こんな姿見せられない。絶対誰にもみせられない。「大丈夫ですか?」っとか途中道行く人に声とかかけられたりとかして目覚ましてる俺。しかもそれが高校3年生の女子という不甲斐ない結果。そもそもこんな夜中2時3時になんで女子校生がおるんだとそこに疑問を感じなくてはならないこのシーンで、「ここはどこ?」だとか記憶をなくした少年かのような謎の発言をする俺。

あとからやってきた専門学生男。こちらに腕を支えられながら何とか立ち上がる俺。そこからは何とか自分の力で歩けたらしく、カゴが思いっきり曲がった自転車をゆっくり押しながら長い長い坂道を進むのであった。。しかもしかも、ただでさえ迷惑かけてるにもかかわらず、親切すぎる彼と彼女は俺がちゃんと家に帰れるか心配だなどと言い出してゆっくりすすむ俺の自転車の横を2人自転車を押す。3人でまるで青春コメディーとでも言わんばかりに電車が通る線路の前坂道をゆっくりゆっくり歩いてゆく。しかも俺だけなぜかボロボロの服装といういかにも訳ありなかっこ。

今思い出しても顔から火が出そうだ。しかもお互いの生活での愚痴なんか言い合ってるのですよ。お前らいつからこんなにいい仲になったんだといわんばかりにすげー和気藹々とトークを楽しんでる。道行く人は俺たちを見てできる限り関らないよう力いっぱい関らないよう猛スピードで通過するばかり。玄関まで送るという彼らの親切にはさすがに参った。俺一人でいくからと失礼にもその場で無理やり離れ、その5秒後にバイト先の社員とばったり遭遇。なんとか訳ありなあの状態を見られるという状態は逃れたものの、何故かボロボロで小汚いという俺の服装をみてモロに心配している様子。だめだ俺。これ以上情を買ってしまってはかっこ悪すぎる。

っとまぁこんな具合で結局限界に挑戦し続けた故にかっこ悪い結果に終わってしまった俺。左の手の甲に一生残る傷を残した俺。その傷に俺は「自制の傷」って名前をつけてビールが5杯目に突入するときとかあらゆる場面でこの傷を見ることによって自制を効かせることができるようになったのである。これ以上飲んだら酔ってしまう。これ以上飲んだら大変なことになってしまう。こんな限界が自分で見えるようになり、さらにそんな状況でこの傷を見れば勝手にストップがかかってくれる。なんとも便利なものだ。

とりあえず全体的に酒の摂取量が減った。あれだけ狂うように毎日飲んでたビールも今は3日に一度くらいの周期。少しだけ俺は大人になれたのだと思う。

けどもまぁ俺は思う。人間限界に挑戦する姿。これは本当にかっこ悪いものだと思う。欲に任せて自分の限界というものをとことん追求する姿、こんな姿に魅力を感じる人間などあきれてものも言えない。人間って誰しも限界を追い求める本能みたいな奴、そういうのを持っていると思うけど、むやみやたらにそういうのを発揮する人って本当に大人気ないと思う。本当に男と呼べる人間は、いつでもおちついて物事が見れる人間。どんなときでも周りをきっちり見れる人のことを言うのだと俺は思う。

マラソン選手?ボクサー?知りません。

お酒を通じて少し大人に慣れたと悟れた今日このごろだったのでしたね。ちなみに今日飲みに行くのだが、俺はマティーニを頼まずビールで抑えとこうと思います。で、本当に危険なときは、「自制の傷」を

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