マッピー

2004/02/23

ゲームセンターに並ぶ大きな巨大画面。当時幼稚園2年目の俺にはこのゲームセンターという空間は怖くて怖くてたまんなかったのです。

けどですね、いとこのお兄ちゃんはゲームセンターに行くのが大好き。幼稚園3年目にしてゲームセンターが大好きというつわものの兄ちゃん。当時の俺はいつもこの兄ちゃんと行動してた為どうしてもゲームセンターに行かなきゃいけなかったんですよね。

一度だけいとこの兄ちゃんにゲームセンター行きたくないって正直に言ったんですよ。けどね、そんなこと言う奴はついてくるな!っとか酷いことを言うんですよ。だから泣く泣くついていくんです。また行きたくないとか行ったら兄ちゃんのことだからオマエなんか絶交だ!っとか言われてもおかしくなかったんですよ。

薄暗い空間。その中に並ぶピコピコ光る画面。兄ちゃんにはかなりトキメキのある空間だったのでしょうけど、俺にとっては問題外。タバコのにおいだってするし背の高い兄ちゃんがいっぱいいて怖い。幼い俺には一年も年上の兄ちゃんは俺とは全く感性の違う大人に感じてた。

とりあえずゲームセンターの中を一通り歩くんですけどね、なんたってそこは幼稚園。お金なんか持ってるはず無いじゃないですか。うまいぼう買えて精一杯のお小遣いしか持ってないじゃないですか。そんなもんどうやってゲームしろっていうんですか。

だからね、最後まで見るだけで終わるんですよ。高校生か中学生かよくわからない、制服着ている背の高いお兄ちゃんとしか当時認識することのできなかった幼稚園児の俺。まぁそんな位の兄ちゃんが必死に画面とにらめっこですわ。

俺も俺でなんか必死になっていつも先生に言われてる通り、ポケットに手をつっこんで歩かないようにだけ気をつけていたんです。なんかね、当時幼稚園で習ったんですけどね、ポケットに手をつっこむ→怖いお兄ちゃんが俺を見つける→ポケットの中が怪しいとお兄ちゃんが察する→怖いお兄ちゃんに囲まれてお金取られたり叩かれたりする。。っていう風になるらしいじゃないですか。だからそれだけはしっかり気をつけてた。

一つ一つのゲームの画面を眺めて歩いていると、お兄ちゃんどうやらいつものお気に入りのゲームを発見。なんかずーっと見てるんですよ。人がやってるのをひたすらずっと。でも俺は全然面白くない。だからボーット周りの景色を眺めてたんですよ。

本当につまんない。チカチカする大きな画面がたくさんあって怖い。そんなこと考えながら周りを眺めてたんですよね。

そうしたらふとあるゲームが目に飛び込んできたんです。怖くてなかなか直視できなかったゲームの画面をふと直視してみたんですよ。

そんなもん当時っていったらまだスーパーファミコンも出てたかどうか怪しい時代ですよ。そんな時代のゲーセンのゲームっていったらそんなもんかなり知れてる訳ですよ。けどね、その画面はまだまだ幼くてピュアな俺のハートをがっちりキャッチしてくれたんですよね。そのゲームの名前はマッピー



↑なんか6階建てみたいなビルの中でねずみが猫から逃げながらアイテムを拾うってな具合のゲーム。

ありえないくらいシンプルかつしょうも無いゲームなんですよ。けどね、その単純な動きに俺は魅入ってたんですよ。気がついたらファンになってたね。ナムコ万歳。

我が家にはサンタクロースがいるんですよ。12月になったらプレゼントを持ってきてくれるサンタクロースがいるんですよ。だからね、毎晩一生懸命お祈りした。幼稚園にしてmappyという英語のタイトルをマッピーって素早く和訳した俺の当時の頭脳には驚きを隠せないが、今の俺よりもずっと頭の良かった当時の俺は両親の聞こえるような大きな声でお祈りしたね。サンタさんマッピー持ってきてくださいって。

そしたらね、なんか12月の最後の方になったらですね。枕元にプリリンっとおいてあったんですよ。ファミコン本体と一緒にあのネズミの絵の書いた箱が置いてあったんですよ。サンタさんナイス。もしかしたらサンタさん以外の何が持ってきたかもしれないけど、もう誰でもいい俺は疑わねぇ。ありがとう誰か!

休日は敏感に早起きになる俺。しかしそれと一緒に何故か嬉しそうに早起きな父。で、嬉しそうにファミコンのケーブルをつなげ始めたんですよ。

本当にね、当時のファミリーコンピューターとかいうハード?あれマジでつなげるのダルいってなこったいよ。なんか針金のようなようわからんコードの外の皮みたいなやつを剥がして無理やりテレビの背面につなげるんですよ。もちろん機械に弱い父には困難極まりない作業な訳ですよ。なんか幼稚園の俺にまで口出しされてがんばってるんですよ父。けどね、このときの父の姿はもう世界中のどこのパパよりも一番だったね。ファミコンついたの夕方だったけどもう全然OKだったね。

それ以来だったか。もう一年間凄い勢いでマッピーをやってたんですよ。色んなゲーム出てるのにマッピーばっかりひたすらやってたんですよ。幼稚園のぎこちない手でいい感じにマッピーをプレイしてた訳ですわ。記憶ではなんか50面くらいまでクリアしてたんですわ。なんか凄いところまでクリアしてた。

っとまぁこんな感じで無駄に幼稚園という貴重な3年間のうち1年も浪費してしまった訳ですが、この話には実はクライマックスが用意されてるんですよ。

ある日。いとこの兄ちゃんがファミコンを買ったって言うもんだから、俺も自慢のマッピーを持っていこうと足早に兄ちゃんちに向かってたんですよ。

俺んちは61棟で兄ちゃんちは63棟とかなり近いんですよね。けどもなんか凄い勢いでダッシュしてたわけですわ。もう新しいファミコンが楽しみで楽しみでたまんないわけですわ。

けど、62棟を超えていよいよ63棟辺りってところで事件が起きた。

目の前に現れたのはここら辺の団地の幼稚園児を取り仕切ってる悪ガキ隊長。表向き平和な幼稚園社会を裏で仕切る通称スナイパー。毒狼。

そんな彼んちはかなりお金持ち。なんか家にゲームソフトがいっぱいあるの。クラスで一人はいるようなゲーム野郎。ドラクエ発売日にはドラクエ休暇とかとっちゃうようなタイプですよ。

RPGからシューティングゲームまで広い分野に渡ってカヴァーして毎日チョイスするのに困っちゃうような彼んち。だが、そんな彼にも唯一手の届かない領域があった様子だ。そう、マッピー

ドラクエだって流行りだしたFF3だって全シリーズそろえた挙句、マリオシリーズだって3まで全部そろえてるんですよ。ディスクシステムとかわざわざ高額はたいてまでゼルダ買うようなそんな男がですよ。唯一ソフト一本だけもってます。一年間これだけしかやってませんっていうこの俺のマッピーをカヴァーできなかったっていうもんですよ。

悔しくて悔しくてならないんでしょうね。最近俺に睨み聞かせてるってウワサは聞いてたけど、よりにもよってこんな時に出現するかと。本当にうんのよさだけは生まれた瞬間から変わってないみたいだ。

で、まさにジャイアンみたいなやり方ですよ。「おいそれちょっとよこせや!」物凄い剣幕で言ってくるんですよ。で、抵抗する俺をいともあっけなくはじき返して気がつけば彼の右手に俺のマッピーが。

かえしてよーヨウヘイ君!ってのび太君をまさにノンフィクションで演じてるんですよ俺。「うるせーよ!これはかえさねぇ!」もの凄い意地悪な彼。で、次の瞬間凄いスピードで走る。

そんなもん俺とか普通に体力ない訳ですよ。1年間のマッピー生活は色々と俺に与えてくれた。共働きで事務所にほったらかしにされた時も、友達に会えない寂しさをマッピーが癒した。夏休みも冬休みも、夢にまでもマッピーが登場して猫に追われている身でありながら俺なんかのためだけに現れて俺を癒してくれた。けどね、同時にゲーム生活は体力を奪ったみたい。一年間で癒しは貰ったけど体力は奪われた。だからね、そんなもん走るなんて手段を使われようもんならそんなもん一瞬で相手は点ですわ。もう姿すらも見えない。

半泣きになりながら途方にくれる俺。そのまま一時間くらい62棟の階段で崩れ落ちてたんですよ。で、ふと顔をあげればなんとまぁさっきのスナイパーヨウヘイ。

こっちに気がつかないで歩いている。

もうその時には追いかける気力も残っていない俺。そんな俺にもっと恐ろしい事実を叩きつけられた。

なんとまぁ彼の手にはマッピーが見当たらないじゃないですか。

しばらくして彼はこっちに気がついてまたもや叩かれるかと思いきや今度はなんかいやらしい目つき。なんか悪いことをしている目つき。

「マッピー落ちてもうたわ。じゃぽんって」

おいおいじゃぽんって一体何を言ってるんですか貴方は。じゃぽんってなんか落ちたにしては嫌な落ち方してるじゃないですか。さらに追い討ちをかけられ涙も枯れ切った俺を後目に、そのままあやまりもせず知らん顔していなくなるヨウヘイ君。流石スナイパーヨウヘイ。毒狼。

そのまま俺は何時間も探し回った。落ちてじゃぽんって音のなる場所をひたすら探した。途中でいつになってもやってこない俺を心配した兄ちゃんがやってきて事情を説明したらもうなんか一緒になって悲しんでる訳よ。で兄ちゃんも一緒になって一生懸命探した。でもいつになってもみつからない。

途中参加でいとこの姉ちゃんも参加。我が家の妹まで参加でもう大変。ちびまるこちゃん始まってる時間になっても俺は家に帰らず探し続けた。

けど見つからなかった。じゃぽんって音が鳴るところ全部探したつもりだが、どこにもなかった。

・・・その3日後。ドブの中でマッピーらしき物を見たと言う証言で俺はそこに行った。それは確かにマッピーだった。ほとんど黒っぽいシールのはずなのに白に変わっていた。なんとか重たいサクを持ち上げてマッピーをサルページしたが、出てくるのは水ばかり。ゴボゴボと水ばっかり吐き出す。

もちろんそのマッピーは二度と起動されることなくその短い人生に終止符(ピリオド)を刻んだ。

あれからもう十数年。俺は久しぶりにファミコンを手に入れて、マッピーをする機会を得た。

もうなんというか。言葉に表せないなんか強い感情が押し寄せてきたね。そう、俺は変わったがマッピーは昔と変わらないまま。あの時のように器用にマッピーできないが、それでもなんか良かった。幼い頃のピュアな自分に帰れた。なんか本当に自分でも不思議なくらい飽きなかった。何度死んでも何度死んでも飽きることなく同じことやってた。なんであの時ってそんなことが出来たんだろうなーって思う。一年間これを繰り返してたんだろうなって思うと本当に不思議。

最近のゲームって本当に進んでると思う。なんか色々なポリゴンとかなんとか使ってファイナルファンタジーとか八頭身とかになってるし、音楽だってもはやオーケストラだし。実際それが普通みたいに感じてるけど、実際俺はこんなドットが丸見えで音楽だって2和音の電子音だったゲームに情熱を注げた。

変わり行く文明にむしろ恐怖を感じたね。一体10年後はもっとどうなってるのだろうかっと。今でこそ振動コントローラーですんでるけど、その頃にはモンスターに攻撃されるつど生傷ができる、体感コントローラーとか完成してるんじゃねーのか?ってな具合。

折角マッピーの話になったしここでちょっと余談だけど、実際マッピーって知ってる人同年代にはそんなにいないのにはびっくりした。マッピー知ってる?って質問にイエスって答えたのは24歳以上位の世代なんですよ。

十代な俺ですから勿論時代の先端を走ってる!・・みたいで実は俺だけ6年くらい時代から遅れをとってるんじゃないかと悟った今日でした。ちなみに今日俺誕生日です。誰か祝ってください。

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