ラストドーナツ

2004/01/14

究極の白靴下を探してみたのです。

もうね、朝からありえなかった。朝いつもどおりのジーパン履いてですね、でもっていつもどおりのコート着て、いつもどおり靴下履いて出勤したんですよ。

ほんともうね、いつもやってることなんですよ。どれだけ前日飲み狂って頭痛くても、徹夜し狂おうと、いつも同じ白い靴下履いていけたんですよ。もうね、白靴下は俺の日ごろの習慣であって、歯を磨くよりもまず靴下。朝食食べるよりもまず靴下。靴下は俺の人生の一部なわけですよ。

そんな俺が何をとち狂ったのかようわからんのだが、朝自転車にのってもっさりバイト先に向かってたらこいつはたまげた。靴下が真っ黒。真っ白であるべきところがどこまでも真っ黒。どういったポジションにいたのか知らないが、白い靴下があるべき場所に黒い靴下が転がっていたといったしだいですよ。このすっとこどっこいめが。

いやぁね、日ごろ毎日洗濯してこう、一枚一枚丁寧に気持ちを込めて靴下たたんでる母のまごころを思うととてもじゃないけど母を責めることなどできない。愛する息子を想い睡眠時間削って靴下をいつものポジションになおす母をどう責めろというのだろうか。俺は鬼か?

で、ですね。ピュアでナチュラリストでナイーブな心を持つ俺はですね、素直にその黒靴下という現実をうけとめたのですよ。しかしまあ、素直に受け止めたところでその黒靴下は白に変わるかといえばそういうわけもない。もっさり運転の自転車を光速で走らせましたとさ。もう必死ね。

もう真冬だっていうのに汗かきまくった。で、セブンイレブーンやらローソンやらとりあえず都内のコンビ二を探しまくったのですわ。なんたってね、バイト先で購入なんかしたらそんなもん300円なんていう公共料金の枠を超えた新手詐欺にあわされる訳じゃないですが。

でもね、意外と白い靴下の相場は高かった。なんか世間はデフレデフレって騒いでるけど、靴下業界はめっぽう悪くない模様。たかがワンセットの靴下に380円とか途方もない値段つけるんですよ本当に有り得ない。こんな不況の世の中でも白い靴下業界はホットなご様子。不況の勝ち組と呼んでもまったく過言じゃないね。

で、がっかりして俺のバイト先であるミステァードーナッツに到着。もうすでに遅刻寸前。でも遅刻じゃない。

事務所に入ると同じ時間に入る予定の女子が待機してた。遅刻じゃないけど到着するにはちょっとまずいような気がしないようなそんな時間に出勤した俺はこともあろうか頭を下げたわけだ。「すまんすまん」って。俺様が、この俺様が、おおお俺様が頭を(以下省略

あいかわらず時給の割りに合わないコキ使いっぷりで仕事を終了。事務所に上がると、まぁ仕事もできてみんなから厚い信頼なんかを受けている社員がパソコンに向かって事務仕事してたんですよ。

俺はこの日、どうしても話さなければならないことがあった。

「すみません。」

パソコンに真剣なまなざしで向かう社員さんの背中に言った。

「おお、ヒロ君。今あがったん?」

相変わらずやさしい顔でこっちを見るんですよ。もうね、そんな目でこっちを見るなと。

そりゃあ普段だったらいいですよ。そのにこやかなスマイルいつでもむけてほしい。けどね、俺は今から、バイトをやめたいって言おうと思ってる訳。そんな時にそんなスマイル見せられたら。俺の決断も鈍る。

「あのですね、俺。来月でここやめたいと思うんです。」

…。


…一瞬時間は止まった。一年間すべてをささげてきたこのバイトに、別れを告げるのだ。俺もすごくつらい。

心の焦りがあった。いつになっても見えてこない俺の将来。女ならまだしも、いつまでも男フリーターなんかやっていられない。10代だって残すところ1年で終わるのだ。そんな時に、決断のできないだらしない俺でいるのが妙にいやだった。

「本気で言ってるん?」

今まで見たことない硬い表情で言った。

「はい。」

俺も精一杯返事をした。

「お前、専門学校行くためにお金ためてるって言ってたやん。なんでそれがこんな風になったん?学校はあきらめたのか?」

その言葉に…

「僕、もう就職しようと思うんです。家がだいぶ苦しくなってきたから、これ以上母に迷惑かけれないですし。」

精一杯の言い訳をした。もちろん半分は嘘。確かに家が苦しくなってもう専門学校なんかにはとてもじゃないけど行ける状態ではなくなった。けどもう少し勉強はしたいって想いはあった。


その噂が広まるのはすぐの事だった。「ヒロさん辞めないで」ってとめにかかってくる女子。もうね、普段の俺なら「OKおれやめない!」って言ってるところだが、今日はまがらない。俺はやめるのだ。

男子(やろう)軍団も声色そろえて言ってくる。「ヒロさん辞めないで」。。。こっちはどうでもいい。

残り一ヶ月。もはやこの店に未練はないはず。俺を散々いびってくれた人間も見返した。オメーなんかやめさせてやるっとかバリバリキ○ガイ丸出しな店長も、今では居場所がないところまで追い詰めてやった。

けど、逆に居場所がよすぎる。

俺にとってここは楽園そのもの。俺を馬鹿にするやつがいなくなると同時に、俺に仕事を習おうとめちゃくちゃなついてくるんですよね。あれだけ無視されてきた飲み会にも強制参加の域にまで達したといった具合。

思わず「辞めたくねーよ!!」って誰もいない場所で叫んでしまった。

一ヵ月後、俺はどうなっているだろうか。

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