女侍

2004/01/11

女は化粧で化けるという話はどこでもよく聞く話。そう、少なからずや俺ヒロにも血塗られたエピソードがある訳だ。

ある日の夕方。俺は派遣会社を通じてとある宴会場に派遣された。今回の派遣先はスゲー楽だよヒロくん。思いっきり楽しんでらっしゃい!っとか派遣会社の奴いってやがるのよ。いっつもいっつも派遣先でこき使われてはっきり言って身も心もボロボロな訳ですよ。そんなヒロさんに楽だよっていわれても信用ならない。あんた何度その言葉で人を騙しつづけたんだと

まぁ派遣会社の人間の悪口なんか言ったところで話は進まない、とりあえず夕方くらいに宴会場にむかってたんですよ。普段めったに乗らない電車とか乗って胸ときめかしてたんですよ。

で、地図どおりに歩いてはみたんだが、なんか到着したところは地図には載らない街ってな雰囲気出した妙に怪しい場所な訳ですよ。犬とか沢山飼ってるうどん屋やら、マッシュルーム解禁とか訳のわからんこと書きまくってる看板が並んでるわけよ。ニューヨーカーだったら確実にタクシーで通過しないといけないようなそんな場所。

で、確実に夜とはいい難いのに、妙に薄暗い変なとおりを通るんですよ。本当にこんなところにまともな仕事できるところがあるのかと切に問い詰めてやりたい。何が楽だ、いきなり帰りたいんだよ。

やっとこさ到着したが、なにやら怪しげな雰囲気かもし出した宴会場、いきなり帰りたいんだよ。

中に入るとですね、なんか凄い気高いお姉さんがいるんですよ。確実にこいつはサドだなって思われるようなムチとロウソクの似合いそうなお姉さんがですね、見慣れない俺を見つけて迫りよってくるんです。

「ああ、お姉さんにこのまま踏み潰されたい」・・な展開にはかろうじてならなかったのだが、不安そうな俺の顔をみて察したのか、「どっか探してるん?」って意外にも優しいリアクション。さすがお姉さん。

「○○って宴会場探してるんです」おびえる俺に、お姉さんは言うのだった。「あら、それってここのことよ。派遣されてきたのね。先にそこの更衣室で着替えて待ってて。他の人まだきてないみたいだから。」親切に更衣室まで案内されると、狭い個室にベットがひとつおいてあるもはや更衣室とはいい難い部屋に連れて行かれた。

まぁ仕方ねえな。今回の派遣先もハズレってことで、あきらめて着替えてやるよ。っとまぁ俺も謙虚に着替えを始めたんですよ。本当になんでここまで俺がんばるんだろうって、人生について考えてしまったよ俺。

黒い蝶ネクタイにバチバチに七三ヘアー。派遣会社に言われたとおりの服装で更衣室を出た。他の社員やらバイトの人がもうすでに到着していた。で俺の服装を見ていきなり顔色を変える。

ヒソヒソ…うわ、またなんか凄い癖のある人来たよ。何この髪型。ダセー。なんで派遣会社の派遣員ってみんなこんな人ばっかりなの。信じられない。キモーイ

周りを見れば髪の毛ちゃっちゃにした兄ちゃんやら、厚い厚い化粧してるねぇちゃん。どこかの宴会場とか言ってた癖にただの居酒屋じゃねーか。なんかね、俺一人この場にマッチしてない。派遣会社に言われたとおりの服装してんのに何一つここの人と繋がりなさそうなわけですよ。たとえるならクラスで先生のことを間違えておかあさんって呼んでしまった恥ずかしい少年な気持ち。なんだあれか、俺はバカかと。

まぁそんな俺の恥ずかしすぎる姿など気にし始めたらきりがない。とりあえず仕事を始めようと思ったわけだが一つ気がついたことがある。なんか俺の派遣されてきた居酒屋、俺以外みんな女なんですよ。おやおや、なにこれ。これってけっこういい職場なのかも?

っとか妄想スタートする前に一言。

「あたし仕事の遅い男嫌いだから。」

うむ、これは危険だ。危険なこと極まりないぞ。またまた派遣会社にダマされた模様だ。これは確実にコキ使ってコキ使って動かなくなるまでコキ使うき満々だ。

「なにやっとん?あんたバカ?さっさ動けよボケ!氏ね」等、とてつもなく世間の婦女子からは想像つかないような言葉がお姉さま方々から発せられるんですよ。なんかな、怒られてるよいうよりな、日ごろのストレスを日雇いをいいことにぶつけまくってる訳よ。そこまで言うかってな勢いで辛口な言葉が盛り沢山。

たしかにね、仕事の内容は楽なんですよ。とてつもなく楽なんですよ。けどね、体より心が持たない。何これ。

徐々に心の底にうっぷんがたまってきた俺だったが、まぁここは大人になって落ち着いてみようと思ったんです。で、周りを見てみたんですよ。そしたふと気がついたことがあるんです。よくみたら、こんな楽な仕事なのに、ぜんぜん店が回ってないんです。グチャグチャになってる。

で、ここでミステァードーナッツで時間帯責任者とか任されたことのある俺の血が異様に騒ぎ始めたんですよ。お前らこんな簡単な仕事すらも回せないのかよって。そこ代われってすげーうずくんですよ。

でね、まぁそこまでやってしまったらいくら嫌いな派遣会社でも評判を悪くするのはよくないと思った俺はですね、一言聞いてみたんですよ。皮肉の言葉を精一杯込めて言ってやった。

「すみません、あなたいったい何年ここやってるんですか?」

するとね、あんだけえらそうにしてたお姉さんの顔色が急に変わっていくんですよ。あんだけ氏ねやら汚い言葉言いまくってたお姉さんが変貌していくわけで。

「じ、実は。まだ入って3ヶ月なんです。」

すごい申し訳なさそうに言うんですよ。なんか今にも逃げ出したいといったそういう顔色。そこで形勢逆転こんどは俺がお姉さんをこらしめてやろうじゃありませんか。

確かにいまどきの女っていうのは本当におしとやかさが失われている。っていうかね、礼儀がなっとらん。親父がちゃぶ台返してこんな飯食えるかぁぁっとか言って女がそれを黙って受け止めるようなそんな時代もあった訳ですぞ。もうね本気(マジ)で最近の女ってやつに男の本当の恐ろしさを見せつけてやる。ぐはははは

「入って3ヶ月。そりゃさばけるもんもさばけないですよね。」

「む、難しいねん!」

「入ってすぐやから周りに怒られっぱなしなんやろ。で、いらいらしてるって魂胆ですね。」

で、ここで思いっきり頑固親父ばりに説教食らわせてやろうと思ったんですよ。

「今年で何回になるんですか?」

「ええっと3回生なんです。」

「もう成人してるじゃないですか!あなたね、成人した大人が先輩に怒られてイライラしたからってもう一生会わないような派遣社員にうっぷん晴らすんですか。いい大人なんですよ。もいちょっとしっかりしてもいいんじゃないですか?まぁたしかにあなたはまだバイトって立場なのかもしれない。そういうのが助けてやっぱり仕事に対する心構えってのがやっぱり弱くなってしまうのかもしれない、けどですね、そんなこと社会に出たら通用しないのですよ。いつまでも子供やってたらだめですよ。ここは学校じゃないんですよ。」

「ご、ごめんなさい。あたしって最低の女よね。あたしが全てわるかった。お願いだから許してヒロさん。もう二度と人を傷つけるような言葉は使わないはわ。全ての人に礼儀というものをわきまえて真っ直ぐに生きるわ。ヒロさんが言った言葉を胸に据えてこの残りの人生一生懸命歩くわ。だからもうあたしの事を責めたりしないで。人のことをけなしておきながら、実は自分が傷つくのが怖かったのよ。人には平気で言えるのにね。うう、あたしって最低の女だわ。死んでも償えないくらい」

「何を言ってるんだ。死んで償おうなんて思わなくても、今自分がやった過ちに気がついた時点で君は全てを許されるよ。許す?そんなの誰が決めることでもない。本当に心の底から僕の言ってることが理解できたと感じたなら全て許されるのだよ。さあ僕の胸に飛び込んでおいで。そしてすべてをうちあけてごらん」

「ありがとうヒロさん。愛してるわ(泣きながら胸に飛び込んでくる彼女)」

っという展開を見せてやろうと気合を入れてみたわけだが、

「今年で何回になるんですか?」

「はい?」

「今年で何回生になるんですか?」

「ああ、3回生。っていうか3年生。あたしまだ高校生やし」

「っていうか成人してねーよ!」

「は?何いっとん?あんたこそ何歳なん?」

「ええっと、18歳」

「18歳?何あたしより一個年上か。なんやあたしあんたに敬語つかわなあかんやん。ま、でもタメ語でえっか。キャラやキャラ。」

「おめーどうみても成人してるようにしか見えねーよ!」

「あ、まぁこれはやっぱり居酒屋とか夜の店で働くわけだし、ちょっと大人っぽく化粧してるよ。でもね、あたしらまだピチピチの高校生よ。高校生!!人を年寄り呼ばわりして。どういうつもりよ!」

「あんな、おまえ・・・」

「はいはいもうわかったから!さっさ働け。」

ああ、すっげーむかつく。え、何これ。すっげーむかつく。信じられないくらいむかつくね。なんだこのナメた糞ガキは。おおっと危ない危ない。大人な俺がそんなに怒りをあらわにしてどうする。落ち着け俺!

見事にナメられきってる俺。聞く話ではこの職場の女みんな高校生とのこと。普段制服きて学校とか行ってるような女子があいかわらず汚い言葉連発。本気でシバきたくなるくらい。

だが落ち着きを取り戻せば取り戻すほど、びっくりするぐらいこの生意気な女子高生の気持ち、だんだん理解できてきた。

居酒屋。それは夜の職場。周りは大人。大人が大人の楽しみに浸ってるのです。

その中に入っていくまだまだ未成年なじゃりんこ。そんなもん少しでも子供らしさを出してしまっては大人におちょくられてしまうといった次第だ。そんな中でも堂々と根強く生きていくには、座った根性と生意気さ。若さゆえに思いついた結論はここだったのだろう。やってくる派遣社員だって無論高校生ではない。そんな人間を使うどころか使われては話にならない。

微妙に要領の悪い居酒屋の裏。そんな要領の悪さの中にも、彼女らなりの必死さが見え隠れして、なんだかさっき彼女らを怒ろうとした俺がかっこ悪くなってきた。

酒を飲んでグテングテンになった客。絡んでくる客。触ってくる客。どんな客がいつかかってきてもおかしくない。そんな職場の中を必死に生き延びる若い女集団。もうこの職場には来ることはない(っていうか正直もう来たくない)が、これからさきも負けないようあの迫力でがんばっておくれとかげながら応援しておこう。

居酒屋。そこで戦う女侍の勇士。そんな彼女たちからもちろん携帯の番号なんか聞きませんよ。誓って。

home