花火大会

2003/07/29

まちにまった花火大会の日がやってまいりました。

普通花火大会といえば、例えるなら都会ね。もうね、とてつもなく都会。24時間年中無休で明かりが消えないようなベストオブ日本に匹敵するようなでっかい都会な訳です。田舎者がオラ将来都会行くべー、って堂々と胸張っていえるようなデッカイ都会。街はお祭り。道路でも北斗の拳では定番の世紀末ヘアーでお祭り。庭の犬だってこの日ばかりは遠吠えやめちゃうような大きな催しな訳ですよ。それが本物の花火。

もうひとつ例えればアレだ。そう下町。街歩いてたら本当に生計なりたってんのかオメェ?っていう店が沢山並んでるような街よ。商店街では気合に負けて財布の中空っぽにさせられそうなマジな商人魂。じゃりんこちえのオヤジみたいな人があっちこっちで町内に響き渡るくしゃみなんぞしてな、電信柱の前では奥さんが井戸端会議なんぞを嗜むようなそんな街よ。そこでいい年こいて「たまやー」とか平気で叫べる日。これもまた本物の花火な訳です。

しかし俺の住む街。ノートパソコンとか素手で持ち歩いてバタバタしているサラリーマンもみなければ、上半身シャツ一枚でうちわとか持ちながら歩いているおっさんもいない中途半端な街。スゲーメジャーな訳でもなく、スゲー田舎な訳でもない。超マイナーな都会なのであります。

ほんとアレだ。思いっきり都会でもなければ思いっきり田舎でもないんだぞ。どちらにも付属できないマイナー系都市な訳だ。チラシ配りのオッサンがチラシ配る相手いなさすぎに立ち往生してしまうマイナー系都市で一体何を開くかと思えば、花火大会ですよ。駅とかでも大きくとりあげちゃってもうなんかすげー気合入りまくりな訳よ。

俺は声を大にしていいたいよ。もうええやんけ!っと。わかるか?すげー都会かすげー田舎じゃないとすばらしい花火大会という風流を味わえない訳よ。本物はここ。中途半端なもっさり都市はもっさりらしく花火大会の日ももっさりと普通にすごせと。中途半端に飾るなとそう小一時間はといつめてやりたい。

それでもまぁ、開くもんは開く。これでも毎年恒例と化している花火大会なんだ。現実を直で受け止めようではないか。

さてさて話は移って、俺は某ドーナツショップでアルバイトをしている。あいも変わらず不祥事起こしまくりの不安定なドーナツ屋なんだが、地味にまぁなんとかドーナツ作って売ってる。朝から眠い目こすりながらドーナツ作ったりしてる俺ですよ。

花火大会。小さいとはいえここミス○ードーナツでも毎年きまってこの日は恒例の儀式が執り行われる。


「シングルの人は全員強制シフト参加」

ナイーブゆえに傷つきやすい俺の心を強くしめあげるこの儀式。そう、彼氏も彼女もいない身寄りの無い可愛そうな人間は絶対強制参加させられるなんともえぐい儀式なのだ。ドーナツを買いにくるお客さんなんかも我々シングル族を見て「嗚呼、この人たちはかわいそうな人たちなんだ」っと思わず同情を買ってしまうような涙ぐましい晒しっぷり。己のシングルっぷりを必要以上にアピらねばならぬまさに人生の修羅場だ。

男十八。ヒロは今日もシングルの人だった。おそらくそんなことは誰だって気にしない。見ず知らずの他人にとってもこんなことどうでもいいに違いない。だがしかしそんな想いもむなしく、「ああ、シングルの人だ。」と、むしろ知らなくてもいいような事実をお客さんは今目の前で知らなくてはならない。お客さんまでもが被害者と言わんばかりだ。

いつもよりも若干遅めに出勤する俺。全ては夜の聖なる儀式にむけての前準備。

若干遅めといえども真昼間。普段朝働いてる俺が昼から働き始めたというだけ。そんなもん花火大会なんて時間的にもかんなり夜になる訳。

だがなんだこれは。あんんたたちここは映画村じゃねーぞ!って切に訴えたい勢いのこの浴衣率。街の人間がそろって浴衣浴衣浴衣。おいおいあんたら、昼間からそう浮かれてんじゃねーよ。彼女の浴衣姿に萌え萌えなのか、ストッパーはずれて真昼間からイチャイチャするバカップル。見てる方まで恥ずかしくてニタニタしてしまう。

あのな、おまえら全然わかってない。マイナー系都市の花火大会の楽しみ方ってやつを本当に理解してない。

浴衣っていう物はな、超メジャー系かもしくは超田舎系の町だから栄えて美しく見えるんだよ。中途半端な都市では浴衣も中途半端。下手したら街歩くの恥ずかしいよマジで。

家から歩いていける距離、または車で行くような場所に花火大会が行われるのがメジャーもしくは田舎の鉄則。電車で330円のキップ買って浴衣と祝日出勤のサラリーマンで駅の改札がありの巣になってるとかもう目も当てられない。風流さが半減するね。夕飯時にうんこの話されたときくらいがっかりだ。

まぁみんな楽しんでる事だ。今回も俺の顔に免じて許してやる。

男十八。ヒロはせこせこと仕事にいそしんでいた。昔からの習慣で、祝日とか日曜日とかそういう日は働いてないと体がうずうずする習性なんかがある。

親父がサービス業をやっている性質からか、小さい頃から手伝いに借り出されていたのもあって祝日はウズウズする。祝日は遊ぶよりも働く!働かないと体がにぶる!

今となっては彼女がいない言い訳のような習性になってしまったが、それでも祝日出勤でビービー言ってる他のバイトを見ながら俺一人何も言わず働いた。シングルはだまって働けと。

鬼のような忙しさだった。さばいてもさばいても消えない親の仇かといわんばかりにあふれ狂う人。そんな中でなんとか15分の休憩をもらった。

同じく休憩だった女の子。彼女は2年もここで働いているベテランアルバイター。ウーロンティ片手にため息なんかついてた。

「息する暇も無い忙しさやなー」キャップをとると、鏡にむかって汗交じりの髪の毛を整えなおす彼女。

「そうですねー」俺もこの日ばかりはコカコーラなんていう甘ったるい炭酸飲料を体が受け付けず、ウーロンティで一休みくつろぎのひと時。

「ほんま、去年とは大違いや。。」微笑を浮かべながら語る。そう、去年のこの時期といえば、あの有名な毒肉まん事件の起こった時期だ。

毒肉まん事件はワイドショーやらニュースやらで大きくメディアに取り上げられ、ミス○ードーナツは大ダメージをうけた。まぁ俺は逆に肉まん食いに再びミ○ドに行ったわけだが。

「去年とかありえないくらい人来なかったのに。下手したら1時間2人でまわしたりしたしー」っとまぁ今となってはありえない事を語りだす。今そんなことをやったら大変なことになる。

「花火大会だっていうのに、人はちらほらしか来なくって。暇で暇でたまらへんかったし」有名な話。客席は常に空だったと言われている。節約の為、客席以外は電気もクーラーも全部消した。熱くてつらくて、そのときやめたアルバイトも数知れずといった具合。

そんな調子だ、花火大会の日は仕事しながら花火なんかを眺めたらしい。しかもみんなで写真まで撮ってしまったんだとか。そこまで暇だったのかと今日の忙しさを見て思わず苦笑する。

「今年は無理だなー」

残念そうにつぶやくと、休憩時間は終わった。勿論、これでもかといわんばかりの忙しさは未だ止まない。本当に写真取れたのかと目を疑う。

バイトが終わった。が、花火は始まっていない。どうやら花火が始まる直前ぐらいにバイト上がりだったようだ。

いつものように自転車にまたがる俺。浴衣姿のおなごとそのオマケの野郎をかわしながら、自転車のスピードをグングン上げていく。

「いいなぁー!あたしも自転車にすればよかったー!」シングルの俺を指差し、彼氏に話題を提供するおなご。俺なんかが話題になってくれてよかったじゃねーか。

屋台の並ぶ町並み。いつもと違う景色で染められた街の一角。家路を急ぐ俺の横を、大きな光が走った。


勢いよく大きな花火が空を覆った。大きな音を立てて。

それに続いて次々に広がる無数の光。カップルやらファミリーやら、その光に照らされてみんないい顔をしている。

近くのレストランのウエイトレスも、パチンコ屋の店員も、CDショップのアルバイトも、一度手を休めてみんなそれに見入っている。

うむ・・・この街の花火も悪いものじゃないな。

何気ない仕事帰りの自転車で、そんなことを想う男十八でした。

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