本物の大人
2003/06/16
ある日の朝、いつものようにバイトに行くと、靴箱には名前がなかった。
店長はあいかわらず俺のことを嫌っているようだ。それ故に色々な面でさりげなく差別攻撃をしかけてくる。お前なんかこのバイトでは要らない人間なんだとそういわんばかりに。
しかし俺は気にしていない。そんな女子のイジメみたいなチマチマした性もないことされても意味がわからない。なんかこれでかなり精神的に傷つくみたいな話を聞きますけどね、俺はもう中学生やら高校生やらそんなんじゃない訳ですよ。むしろ逆に「大人気ないなぁー。40のオッサンなんだしもうちょっとくらい大人なやり方できるだろ。」って割とお節介なことまで考えてしまう。
俺を合わせて合計4人の首が決定したらしい。それもなんとなく嫌いという店長のワガママでだ。店長が新しくなってもうそろそろ3ヶ月になろうとしている。何かと問題を起こそうとするこの店長の意味のわからない行為に、働いてる人間全員がうんざりしている。副店長までため息がでるしまつだ。
陰から徐々に俺を落としいれているつもりになっている店長。大変な役職だしなぁ、って一応心配しながら見守る俺。そんな2人の関係をもっと狂わす大事件が、今日まきおこったわけです。
休憩時間。俺はコーヒーなんかを片手に新聞を眺めてたんです。俺はみんなより一年遅れて学生するので、勉強代わりに日経を毎日読むようにしてるんですよ。そしたら横で店長がさりげなく俺に言ってきた訳です。
「ヒロ君バイトの更新一週間後だね?」
「あ、はい。」
「君、更新しないから。もうバイトに来なくていいよ。バイバイ」
おいおいおい、いきなり何いいだすんだ。それって休憩時間に言うことか?まずそこから間違ってるだろ。そうツッコミ入れたくなったが、この店長普段から常識ってものをわかっていない。いつものように広い心をもってして許してみる。
「すぐに来ないってのはできないですね。1週間後までシフトは決まってるんです。人に迷惑はかけたくないですから。」
とりあえず冷静に言った。ちょっとでも感情を表向きに出したらかっこ悪い気もするし。
「君はね、常識ってものをわかってないんだよわかる?」
聞いてもいないのに俺をやめさせる理由を語りだす店長。もうね、全然話かみ合ってない。いきなり2言目からかみ合ってないですよ。
「社会のルールってのがあるのや。常識ってのがあるのや。人に聞かなくてもわかるようなあんまくのルールってのが」
いやいや・・・いきなり休憩時間に首って語り始めるあんたよりはマシだよ。しかもあんまくのルールってなんだよ。「暗黙」じゃねぇの?漢字くらい読んでくれよ・・・あんた何年生きてるんだ。
「は、はぁ・・・」
相手は店長。反論しないのが世の鉄則。とりあえず軽く返事をする俺なわけです。
「それに君は仕事ができてないじゃないか!何をするにも要領が悪いし、覚えていない仕事も多すぎる。」
ああ、それは本当に悪かったです。仕事のできない俺はほんとうに悪い。こればかりは反論しません。
「1年も働いているのにそれだろ。一体今まで何をしていたんだ。」
いやいや・・俺まだ5ヶ月なんですが。去年っていったら俺まだ高校生3年なってすぐでっせ。このバイと高校生不可じゃねぇか。どう計算したら1年になるわけよ。あんたもこの人生40年間何をしていたんだって問い詰めたいね。
「あの・・俺まだ5ヶ月なんですが。」
店長いきなり顔が笑わなくなる。さっきまで誇らしげにえらそうにほほえんでたあの顔が今は笑ってない。
「そ、そんなことどうでもええねん!とにかく君は首だ」
い、意味わかんねぇ。やめさせる理由なんてどうでもいいのかよ。
「いやです。」
ムカツイたから反論。
「いやじゃない!首だクビ!!!私のように仕事も要領よくこなして信頼もある人間にもならない限りおまえは必要じゃないんじゃ!!」
オメェが一番仕事できねぇんだよ。一番できると思い込んでたのか?いやぁ本当に思い込みって怖いと思う。
「ウワサでは○○さんもクビらしいじゃないですか。この方は絶対やめておいたほうがいいとおもいますよ。」
「オマエに何がわかるんじゃ!!」
「俺をやめさせても、この人だけは絶対にやめさせちゃいけませんよ。絶対にですよ。」
もはや警告のつもりでいった。この人が今この店をやめたら、この店がどうなるか俺はよくわかっている。店長は感情で人を切ろうとしているが、そんなことは社会のどこでも行われている普通の行為であって許せない許せないと思ってみたところでどうにもならないことである。だが、この人は今、店をつぶしかねないような大変な行為にでようとしているのであって・・・
「○○さんって絶対にクビにしちゃいけませんって。仕事できるじゃないですか」
「とにかくコイツはクビじゃぁ!!!」
怒りのあまり己のやっていることが見えていない40のおっさん。ここまできたら人間とめようがない。
俺はフリーターっていう社会的にみたら完全にゴミと呼ばれる部分に属している訳だが、ゴミと呼ばれても一応社会人。髪の毛も染めないできっちり刈り上げて、たまにネクタイなんかもしめなきゃいけない。
幼いころ、周りの大人はみんな紳士に見えた。子供の社会の中では見られないクールな性格。大人になりたいと毎日大人の影を追って今まで生きてた気がする。
フリーターになる寸前だってそうだった。仕事場にはたくさんの大人がいる訳だ。今までの学校とは違って、大人の人とともに生活することが多くなる訳だ。かっこいい紳士的な大人にあこがれている俺は期待で胸がワクワクしまくった。
しかし実際社会にでてみてはどうだろうか。ファーストフードにせよホテルのバイトにせよ、俺の想像していたような本当にかっこいい大人の社会ってのはそこになかった。胸トキメクようなかっこいい大人というのは全然いない。俺の真の理想の大人ってのがまったくいない。
子供の俺が言うのもあれだが、思っていたよりも大人は子供だった。周りをつねに広い心でみつめ、頼りがいも貫禄もあり、子供の俺なんかには無い鋭さみたいなものをもったすばらしい大人というのはみつからない。探さないと見つからないほどしかいないと思うと残念すぎる。
今俺は、感情だけで物を言ってしまうような大人というデッカイ殻をかぶった子供に首を言い渡されている。せっかくデッカイ脳みそ持って生まれた人間だというのに、動物のように怒りを体に爆発させて。顔も真っ赤にして。俺の中の大人の人間という像が音を立てて消えていく。
この後、休みだというのに訳のわからない店長の為に副店長出勤。俺を含めた4人の首をなんとかくいとめた。
人間の人生ってのは短いと俺は思っている。
しかしその短い人生の中でかなり大きく変化する、それが人間なんだなぁって思う訳ですよ。その中でも子供から大人に変わる部分、ここが一番大きな変化なんだとそう思ってる。
中身無く何十年も生き、大人へ変わらないまま外見だけが大人へ化けてゆく。そんなんじゃかっこ悪い。
中身にきっちりとした大人という土台をずっしり固めて、その上で大人へ化けていきたい。
いつでもクールで、冷静で頼りがいがあって、子供とはまったく違う鋭さのある俺の理想の大人。俺は今からでもそういう人間になれるようがんばろう。20歳になった頃には「ヒロは変わったな」と、陰で言われるようなクールな野郎になってやる。
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