霊が残した物

2003/05/19

洗い場には小さな霊が住み着いてる。っと、噂を耳にしたのはここ最近の話。

俺はドーナツ屋で毎日寝る間も惜しんで働いてるのだが、こんな噂を耳にしたのは半年間勤めていこれがはじめてである。むしろ、噂はたってても俺自身が聞く耳を持たなかったのかもしれない。

はっきりいって俺って言う生き物は全く持って霊とかオバケを信じないですからね。なんなら目の前に見せてみろって話ですよ。そりゃね、霊をこの目で確認したならば、負けを認めオバケなんてこの世にはいねぇよ!って信念もまげてそれを信じてやります。でもね、見たことないもんはみたことないんです。どう信じろ?って話ですよ。全くもって・・・

しかし見たことも無いような霊を信じて、同じバイトに働く後輩の女郡はキャーキャーわめきたてる。本当にいるんじゃねぇの?って一瞬ためらうくらいにね、ワーワーわめきやがるあいつら。

ここ最近俺は萌えに飢えていますからね。なんでか知らないですけどね、こう胸トキメクような萌え萌えな人ってのに憧れてますよほんとマジで。だから以前の俺だったら「あーもう女ども。ワーワーキャーキャーウゼェんだよこのアフォども!」っとか素直にマジギレモードはいってたんですけど、今だったらもうアレなわけですよ。「今時オバケにビビってくれる女もいるもんだな!」って俺の萌え萌えメーターが素直に反応してくれるわけだ。だからね、もう全然許せる。

「本当にオバケでるんですか?」顔が苦笑している後輩の女の子がビビリながら聞いてくる。後輩って言っても実際は俺よりも一つ年上のお姉さんなんだが、身長も低く性格もかなりおっとりしている彼女は、俺相手には完全に年下キャラと化している。年上なのに敬語まで使ってくるんですよ。まぁ悪い気はしないのだが・・・

「でるんじゃねぇの?いや出るな、もう確実に!」女の子がビビりまくってるその姿に萌え萌えなあまりにからかいまくるおれ。アレなんだ、俺って実はサドっけあるんじゃねぇの?ってためらうくらいにマジビビリする女の子をからかって遊んでたんです。俺自身はいないって確信しているけど、今時オバケに脅える女の子が面白くってたまんなくて。

次の日、昨日の面白い事件もあってかしらないが、なんとなくふいに洗い場を掃除したくなった。

っていうか、洗い場は相当汚くなっていた。もはやそれが一番の理由。フリーターで毎日バイトにいる人間にしかこういうところに気が回らないわけで、今回もそんな毎度のパターンにのっとって掃除をしようって魂胆。ホウキにダスターにホース。掃除用具入れから色々な掃除用具を取り出す。

適当に大きなゴミを掃いていると、ふと俺は気になる場所が出てきた。

古い引き出し。

引き出しにはテイクアウト用の袋やら洗剤やら色んな物が入っていて、毎日フル稼働している。そのせいもあってそうとうガタが来ていてボロボロだ。何度も修正した跡なんかがある。実際に俺もこの引き出しにかなづちを当てたことがあったりもする。

引き出し自体は別にどうってことない。それ自体はボロボロとはいえ、毎日稼動しているのもあってある程度の掃除が行き届いている。ただ、一つどうしても気になること、それは引き出しの裏だ。この引き出しは割と安上がりに設計されているのもあって、引き出しの裏には安っぽい板やらいろんなものが無造作に張られているだけで電気の回線やらいろんなものが裸で放置されてる。ここは相当汚くなってるはず。

天下のドーナツショップに一箇所たりとも不清潔なところがあってはならぬ。そう心に決めてる俺ですから、ここは絶対に掃除をする価値があると思ったんです。たしかに人には見えないところかもしれないが、そういうところでも掃除することによって今のドーナツ屋が支えられていると信じてますからね。そう、俺がやらねば!これはきっと神が生まれ持って俺に与えた使命にちがいない。

4つ並んだボロイ引き出し。細長く横に広がるスリムサイズな引き出し。左から順番に開くことにしよう、この使命絶対にやりとげてやるぜ。

一番左の引き出しをそーっと開く。全部取り出すと、裏をかがみこんで覗いた。

もうそれはそれは汚いこと。もう「汚」なんていう言葉じゃ表現できないくらいに酷い汚れ。なんかワクワクしてきたじゃありませんか。ほら、手のかかる子ほど可愛いっていう訳ですし、これだけ汚いところを掃除した暁にはものすごい達成感みちあふれるに違いない。いや、絶対にそうだ。

大量に散らかる引き出しの中身に入っていたであろう雑具の残骸。何年も前のお持ち帰り用ボックスとか転がってるんですよ。もう親の仇といわんばかりの勢いで。

それを素手で拾い漁る。拾い狂う。制服の汚れなんか気にせず不断の心構えで掃除に没頭。雑巾なんかでホコリをふき取る俺の姿なんかを貴女がみたなら、きっと一目惚れだろう。手も真っ黒にして掃除に狂った。

一番左の引き出しは完璧だ。次は2番目の引き出し。

一際きれいに見える?引き出しを後に、俺は次の引き出しを開いた。

ギギギー。なかなかゴージャスな音を立てて開く引き出し。こいつもきっと、凄いヤツに違いない。そうワクワクさせて息もハァハァさせながら開く。

引き出しを最後まで引き出して引き抜く、そしてかがみこんで裏を覗く。

相変わらずそこも物凄い汚さ。そこはすざまじい戦場と化していた。「うわーきたねぇ・・・こんな所とてもじゃないけど女の子にはまかせられないなぁ。」そう再確認すると同時に、掃除にとりかかった。

わけのわからない機械のパーツに散らかる雑具。相変わらず汚い2番目の引き出し裏を徹底的に洗いまくった。

俺は基本的に手袋とかいうシロモノは邪魔臭いので、素手で汚い物をつかんでいる。勿論手は真っ黒となっている。汚い物を持つという行為は、このフリーター生活でだいぶなれまくってたりする。女子トイレのゴミバコの中で赤い汁を大量にすった紙くずやら、とある部屋ではベットの下でカリカリになった白色交じりの異臭を発する物体だって素手でもった。だから完全に俺は素手でグロを手にする行為には慣れきっていることくらいこれで察することはできるはず。しかしそんな俺でも、こればかりはさすがに冷や汗がでた。


何年か前のミルクの残骸。


コーヒーに入れるミルクには、明らかに生物が作ったのであろう大量の歯型。そこからミルクを吸ったのであろう、ミルクは完全に吸い取られ年月と共にホコリをかぶったといった様子。歯型のついた物体。その形の変貌ぷりに、俺のワクワクは不安へと代わっていった。

「本当にここを掃除してよかったのだろうか?」ふとそう頭をよぎったが、いまごろ後には引けない。もうすでに一つの引き出しの掃除は終わっているのだ、これで後に引こうものなら男が廃る。

2つめの引き出しの掃除を終えると、次に3つめの引き出しへ突入することにした。

3つめの引き出しをそーっと開く。そして最後まで引き出しきると、引き抜いて裏を覗き込む。無論、かがみこむような姿勢で。

そこには先ほどまでとは違い、ゴキブリやらネズミ対策の赤い粉末薬が紙皿の上においてあった。どこにもゴミなど落ちていない。

引き出しの裏は基本的に全部繋がっている。だから、一箇所に薬を置くだけで、裏の防虫対策は万全ということになる。しかし、何故ここだけそんなに汚れていなかったのかは未だ謎だ。ほとんど汚れが目立たない。

正直言って怖い。ゴキブリは平気で殺せる根性くらいは持て余しているおれだが、未知の生物がここに住んでるかもしれないと思うと本当に怖い。脳裏の色んな妄想が広がって手がそれに応じて汗ばんでる。

けど掃除はしないといけない。いくらほとんど汚れていないからといって、何も手をつけないというのはちょっとアレな気がするわけですよ。ここで手抜いたら一生適当人間だ。手抜きなんかするもんか。

脅えながらも、そーっとその薬品の乗った紙皿を取り出す。

紙皿の上には蛍光赤の薬がちらばる、が、、それ以上にもっと凄いものが目に入った。


紙皿は半分しかない。

物凄い勢いのかじり跡。明らかに何者かの生物が噛み付いた跡だ。こんな小さな空間で生きるような生き物が、ここまで凄い勢いで噛み付くのだ。ここまで狂おしいくらいに噛み付くのだ。ここまでかじることなんてそそうの力じゃない。どこまでも広がる未知の生物の妄想。痕跡からどんどんよみがえっていく。やはり怖い。

今突っ込んでる手は正直安全なのだろうか。実は俺、とんでもないところに手を突っ込んでるのではないのだろうか。さっきまで平気で手を突っ込んでゴミなんかを掻き出しているが、実はとんでもなく危険なことなのではないか。不安材料しかないこんな状況、俺の頭は危険信号発しまくり。これ以上掃除を続行するな・・っと。

3つめの引き出しを閉める。残されたのは最後の引き出し。4番目。

これが終われば掃除は終わる・・・が、正直これ以上掃除をしたくない。

しかし開けてはいけない、そう思えば思うほど、開きたくてたまらない。他の3つは覗いたのに一つだけ覗かないというのが人間の心理に触れて痛い。開きたい。開きたくてたまらない!いったい4番目の引き出しには何が眠っているというのだ!!

はっきり言って4番目の引き出しを開くというのは、相当危険だ。ここまで材料があるのだ、危険を知らしめる材料がこんなに沢山でてきたのだ。これだけの材料があって危険じゃないなんて誰が断言できるだろうか?危険の塊じゃないか。

しかし、危険だ!危険だ!と考えれば考えるほど開きたくなる。手は突っ込まなくても、責めて覗き込むだけなら!!・・そう考えるまでに時間など要らなかった。

手は震えない。何故か俺は落ち着いていた。覗き込むだけ、そう自分に言い聞かせているせいなのか、酷く落ち着いている。

ゆっくり4番目を開く。引き出しを最後まで引ききると、引き出しをイッキに引っこ抜いた。

そーっとかがみこんで裏を覗き込む。

先ほどとは違うタイプの防虫剤がその蛍光色を徐に輝かせる。目に入るまでに時間など要らない。

覗き込むだけ、そんな気持ちはどこへやら、手はその防虫剤の乗った皿へと進んだ。

熱い鉄も、一瞬触れるなら熱くない。そう、危ない空間だって、一瞬つっこむなら大丈夫だろう。きっと・・・

わけのわからない心理。俺はパニックを起こしていたのだろう。おそらくビールを100本飲んでもこんな訳のわからない精神状態には陥らないだろう。

素早くその防虫剤を引き寄せた。先ほどの赤とは違い、不気味にオレンジ色に輝く薬品。蛍光色なのに微妙に色あせたように見える、そんな薬品。

そこには、さきほどとは違って小さな粒粒が含まれていた。

先ほどの赤い防虫剤には何も入っていなかった。純粋な赤をやっていたが、この不気味にオレンジの防虫剤には不純にも黒い粒粒が大量にのっている。墨のように真っ黒だ。

・・・これは、ただの砂ではない。

すぐに察した。第一こんな特殊なところに乗る物体だ、普通の物体ではないことぐらいすぐにわかる。

顔を近づける。


!?


俺は素早くそれを地面に置いた。手が振るえはじめる。目が充血し始める。頭に高圧電流が流れる。心臓が普段よりもハードロックなビートを刻む。

そこにいたのは、大量のウジ虫だった。

ウジ虫は干からびてカラカラになっていた。それを物凄い至近距離で細かい足やら毛まで見えるような距離で見た。かなりでかい衝撃とインパクト。これはトラウマになること間違いなし。

袋を4重固めにしてゴミバコに捨てたが、あの光景が目に焼きついて消えない。大量にもがき苦しみしんでいったウジ虫の死体。薬の上で行き場を無くしカラカラに干からびたウジ虫のその山という山。

その後俺は、ドーナツが全く喉を通さなかった。自分が飲むコーヒーを淹れようにも手が震えてデカンダが歪んで見えるといった次第だ。

その後、先輩にこの話をすると、先輩は表情を固くしながら言った。ためらう様子はあったが、ここまで知ってしまった俺にはもはや関係ないといった感じで。

去年の夏、ここで一匹のネズミが仏となった。夜の間に侵入して、出れなくなったネズミは生きよう生きようと中で必死にもがき狂った。

迫り狂う死の恐怖。空腹で弱る己の体。目をつぶれば体は自然に腐食していくであろう衝撃。真っ暗の闇の中で自分の存在を消さぬように必死に生きた。そのネズミの最後は、あっけなくも誰にも発見されることも無く仏と化した。

見つかったときには原型もわからないようなウジの山。そのあきらかにおかしい異臭っぷりで発見されたといった次第だ。このネズミ、そうとう辛かったに違いない。

そのネズミはそう、自分の姿を今での主張しているのだろう。自分は生きていると。真っ暗な闇の中でも必死に、一生懸命生きているのだと。その信念が、今でも消えずに洗い場の霊として残っているのだろう。すぐにそう察した。

今でも霊の噂は耐えない。一匹の小さな魂が、今でも己の存在を主張し続けている。永遠の暗闇の中で。


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こんばんわヒロです。全く更新ができなくて俺自身も辛いです。HPの更新してぇよぉ。

さてさて今回語った話ですが、俺のバイト先で起こった本当の事件です。霊も出るし、ネズミの件も本当です。

食品を扱っている店なので、どこも常に清潔にしようと働いてる人みんなが本当に心一つにしてがんばってるのですが、どうしても不清潔な部分って出てくるんですよね。洗い場だって「汚い」って言ってるけどけっしてそこまで汚いわけではないんですよ。キレイ故に汚れが浮き彫りになっちゃうようなそんな世界なわけですよ。

そんな世界でここまで恐ろしい部分もあったってのが俺の中では本当にショックだった。食い物が喉とおらなかったからね。まぁ今では元気復活でドーナツ食いまくりですが!!

今回感動物の書き物に続いて、スリル物の書き物を書いてみました。どうでしたか?ちょっとはドキドキしてくれましたか?俺が書いても全然ドキドキしませんよねぇー!許せ!

さてさてこんなただのそこらの18才の無駄話もそろそろ聞き飽きただろうから、これにてお粗末ってことで。それでは体(特に肺炎っぽいヤツ)に気をつけて!さようならー

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