教習所の悪夢

2003/05/10

車の教習所の試験が再び迫ってきた今日。

俺はパソコンを使って講習をうけていた。再びな。もう何回も試験落ちまくってます。はっきりいって俺みたいな能無しが来るところじゃないと思う。いやマジ真剣に。

横書きに喋りつづける教習所のオッサン先生。わかろうと思えばわかるのだが、聞くのがダルイといった具合の授業。これではなんど試験を受けても無駄だろう。だが一応高い講習料はらってわざわざこの遠い教習所まで来ているのだ。無駄にはできない。

そんなやる気のあるような無いようなやるせない想いでPCのモニターを眺めていると、後ろをそのオッサン先生が横切った。

「どうだい?わかるかね?」

「え、ええまぁ。(んなもんわかるわけねぇだろクソジジイ)」俺も無機質な機械みたいにボーットパソコンに向かいながらそう言う。いやね、こんなの俺じゃなくっても100%同じだと思うよ。わかんなくてもわかったみたいなこと言っとかないといけないような雰囲気な訳ですもん。

「それじゃあ質問してみようかな!」

オッサン先生は愉快にテンションなんかを上げながら話題をふってくる。「え、ええまぁ。(ああウゼぇ。ちょっとダマってろよ!)」っとか心とは裏腹の言葉なんかを口に出しながらなんとなく参加。まったくありえねぇし。

「キミもついでだから参加ね!」

俺と3つほど席が離れて座っている女の子も参加することになった。ピン同士でサシでやってもオモんないってさすがにオッサンも察した模様。

見ればなんとまぁそこそこ可愛い女の子が座ってるじゃありませんか。目が合うと俺の心はバクバクと早いビートなんぞを刻んで、頭はショート寸前フリーズ寸前で真っ白。え、なんだアレじゃねぇか、こんな可愛い子と一緒だったら俺いくらでも質問受けちゃうし。全然ありえなくねぇじゃん。

女の子はとりあえず俺の横に席を詰めてきた。先生VS俺&カワイイ子。あ、なんか勝てる気がする。俺今ならなんでも答えられそうな気がする。

しかしさすがと言ってはなんだが、何度も試験落ちてる俺。訳わかんないわけです。何言ってるのかわかんないこのオッサン先生。きっとこの人はとてつもなく偉い哲学者に違いない。そうでなかったら確実に地球外生命体だ。

オッサンは誇らしげにその場を後にすると、すぐ近くのグループ集団の所へとむかった。うむ、どうやらどこでも同じようなことをやってるらしい。大きな敗北感だけを残して最悪です。もう顔もみたくないです。

しかし一つだけあのおっさんは俺に一つ大きな物を残していった。そう、それはすぐ横の可愛い女の子とお近づきになれたことだ。あんなわけのわからない質問ゲームがなかったら確実にこんな雰囲気に展開されなかったであろう。ペチャペチャお喋りなんかしちゃってもう教習所サイコーって心の底から思ったよ。オッサンありがとう。

しかも一時間後には「あんた何回試験落ちてんねん!」みたいなものすごいハードなジョークでトークまで繰り広げるようになっていた。人見知りの少ない彼女。すぐに打ち解けるタイプのそんな彼女。俺は何か心に引っかかるようなものがここに生まれた。

だが、そんな想いも虚しく、彼女とはいつのまにやら犬猿の仲になっていた。

もともとあまり女の子と喋るのが得意じゃなかった俺は、女の子である彼女が織り成すハードなジョークについてこれなかった。女の子とのトークに慣れていない俺にとって、ジョークとわかっていてもジョークと受け取れ切れないマジな部分があった。そういった意味で、彼女と一緒にいる時間というのは精神的にも疲れるし、彼女もジョークを真に受ける俺が少ししんどかったようだ。

「顔もみたくないわ。マジで」

そんなメールがほぼ毎日続いた。俺自身も苦痛だった。高校時代彼女なんか作ったこともない俺が、こんなところに少しでも希望があるんじゃないかって期待したのが悪かったらしい。女が怖い。今真剣に


一週間の時がたっただろうか、女を真剣にダルいと思っていた俺に、またしても事件はおきた。

車の実習を行っていた時のこと、助手席の先生が一言俺に言った。「キミ、だいぶモテるみたいだね。」

一体何をいってるのだこのオッサンは。頭が禿げてるのは許すが、頭が潰れて非モテの俺に対して侮辱的な言葉を発するとはなんとも許せない野郎。その残った髪の毛を無理矢理ひきちぎってやr(略)

「君の事をいいって思ってる人がいるんだよ。」

マジかよ?この俺をか?その女、相当のB線に違いない。どうみたら俺がカッコイイ好青年で、しかもシュールな紳士に見えるというのだろうか。男を見る基準を疑うね。

「メルアド、渡してくれって言われたんだけど。」

そう言われた時、何故だろうか、貰ってはいけないって衝動に駆られたのだ。今女がダルイって思ってるからとかそういった理由じゃない何かが。彼女が欲しい欲しいって生まれた瞬間から言ってる俺が、今女からメルアドを渡されようとしているのだ。だというのに俺は貰ってはいけないって思ってしまう。何故なのだろうか。

「す、すみません。それは・・・」

少し頭を下げて謝る俺。何がそうさせたのかはわからない。けど、いま俺は女性とメールしたいだなんて思わない。思えない。

その2日後だろうか、再びその先生の隣で運転することになった時、その先生は再び俺に頼み込んできた。今度は物凄い勢いだ。「すまん、真剣に頼まれて断れないんだ。問題がおきたら俺のメルアドも渡しておく。だからお願い、受け取ってもらえないかな?」自分のメルアドまで添えて無理矢理わたそうとしてくる。

先生がここまで頼み込んでるのだ。今更断れない。

しぶしぶメルアドの書かれた紙を受け取ると、先生は嬉しそうにしながら助手席の窓を見上げるように眺める。日差しが強く温かくなってきた春の午後、それにつられたようにいいテンションで実習が始まる。このまま合格もらえそうなノリだ。

メールの女は、履歴書の証明写真で顔を見た。しかしその3日後には映画に誘われたので、可愛いのかどうかなど気にする暇もなく実物にあった。そこそこのお姉系。世間ではケバいって言われるタイプの人間だ。

俺は元々そんな女も嫌いじゃなかったので、簡単に自分の中に取り込めたじっと座るのが苦手な俺、眠たいという感情をグッと押し殺し、終わった頃には「あ、マジヤベェ。これスゲェおもろいし」っとか余裕をかましてみせた。

バイトの面接が落ちっぱなしの俺はお金が無い。かっこ悪いが映画を見ただけという簡単なデートで終わった。しかしそんな簡単デートでも、メールの女は存分にうれしそうにしている。もうそれだけでおなかいっぱいだったのだろう。

楽しいと思えない。。嫌なはずなのに、凄く嫌なはずなのに、あの彼女の方が気になってならない。俺はあの子とこのようになるのを望んでる。心のどこかで。

意識してるつもりはない、ただ、そういう感情が生まれた時から、あんなに喧嘩していた彼女とはだんだん雰囲気がよくなってきた。「顔も見たくない」なんてメールで打ってたのは嘘みたいだ。

だがしかし、堂々とそういう感情を出せない。何故なら俺は、あのメールの女とデートなんぞをしてしまったからだ。今、俺は2人の女というものに物凄い圧力かけられている。どちらも選べていない、ダラしない男となっているのだ。

しかし彼女に対する想いは深まるばかり。俺はいつのまにか、彼女とデートの約束をしてしまった。今までに無い、最高の勇気をふりしぼって。傍らではメールの女の子とも気になるが、俺の膨れ上がるこの想いは止まることなど知らない。何故早く気がつかなかったのだろう。

デートは何故か映画になった。何故なのだろうか。底知れぬ背徳感を感じた俺は、とりあえず違う映画をチョイス。これで同じ映画なんか見てたら、俺の頭の中はぶっこわれていた。確実に。

勿論今回のデートも、バイトの面接落ちまくりの金欠サイフのせいで、かっこ悪く映画のみで終わった。

2人の女から鳴り止むことなく飛んでくるメール。しばらくの俺は、このメールで胸を不安一色に染めらる。言い訳なんか関係ない、俺は最低のことをやってのけているだ。心にも無いようなメールを、好きでもない女にゴマかし程度に送っている。そのつど、俺は不安になる。


ある日、彼女にメールで食堂に呼び出された。彼女は製菓の専門学校に通ってるらしく、今日はそこで作ったお菓子なんかを持ってきたらしいのだ。

男は腹でつかむものだ、って昔の恋愛上手な女はよく言ったものだとおもう。いっとくがな、女の手料理ほど強い武器はないぞ。あんなもん食った日には、男の心はすっかり虜になってる。クッキーなんか貰った日には、「嗚呼俺こいつ以外は愛せない。絶対に」とか夜な夜なうわ言で言うくらいに異様なまでに狂わされるぞ。

とくに18にもなってまだ一度も女の愛ってヤツをつかんだことのないような俺みたいな人間。かなり手作りに飢えてますよ。手作りが食えるってなら例え火の中水の中どこにだってツッコンでみせますよ。

そんなディープな想いを胸に、俺は食堂に到着した。彼女の周りには、、7〜8人の女友達やら女の先生が密集していた。

おいおい、火の中水の中とは言ったが、女の中はとは言ってねぇぞ。どうやってこんなかに入れるつもりだ。無神経にも程があるぜ。。。

・・・そう、遠くを眺めるような目でそこを眺めていると、食堂にもう一人誰かがやってきた。ずばりそれは、メールの女だった。

あいかわらずケバいファッションで我が物顔で歩く彼女。無論、食堂の入り口で情けなく佇んでる俺の姿など一発で見つけて・・・

「あ!いたのぉ!!偶然ね!一緒に食べない??」

いやね、たしかにそこそこ気品はある子だからね、声の量は押さえてあるんですよ。そんなもんキャピキャピしているどこぞのガキとは違って、ギャーギャー叫んだりするような目も当てれないようなダメ女ではない。

ただね、距離が近すぎて会話が全部お菓子配ってる彼女に聞こえてるんですけど・・・

そんなもん近すぎですよ。例えるなら学校コントで先生と生徒やってる漫才芸人くらいに遠いようで実際かなり近いわけですよ。

ありえないシチュエーションとなってしまった俺。穴があるなら入りたい。電気コンセントの穴でもいいから入りたい。凄く嬉しそうにしているメールの女。顔だけは笑ってる俺。それを傍聴する彼女。

「いや、今はいいや」

適当に交わすが、相手も怯まない。「こんどまたどっか遊びに行かない?」

「またな。(いや、無理。)」とりあえず軽く会話を閉じると彼女にバイバイと手を振った。彼女もそれに応じてなんとか強引ながらもわかれた。

そのころには女集団もだいぶ少なくなっており、お菓子を配ってる彼女のもとにだいぶ入りやすくないっていた。

手作りお菓子を頂こう・・・そう彼女に目をやったとき、一言の言葉がはっせられた。


「誰があんたにやるか!」

割と冗談感覚のノリで言ってるようだが、彼女はマジだ。周りも彼女がまたおかしな冗談を言ってるととっているが、俺は一瞬にしてそれを察したのでその場を立ち去るのが一番だとすぐに判断した。家に帰ろうと。

カバンを肩に抱えて、バス乗り場に向かった。

俺は本当に最低な野郎だ。2人の女のうち一人を選ぶなんてそんなの考えなくてもわかることじゃねぇか。けど・・・それが俺には難しかった。頑張ってみたんだけど・・できなかった。

めぐるめぐる色々な思い出。少ない時間だったけど楽しかった。青春してただけなんだと、そう思わない事には、気持ちの整理がつかない。

バスは丁度止まっていた。走って乗り込むと、座って出発を待った。

時計が丁度キリのいい時間を刻んだ。「ビー」っという発車のサインとともに扉はしまる。

窓の外をふとながめる。この日もいい天気だ。日差しも温かく春であることを自覚させてくれる。桜はもう散ったが、そこには緑がそれに負けじと被い尽くす。ふと少し視線を変えた、するとそこには。


彼女がいた。


俺は考えることなどせずに、すぐに席を立った。バスの運転手に「すみません!下ろしてください。」焦る気持ちを抑えきれずに、あたふたしながら俺は遠くはなれつつある彼女を窓ごしに眺める。

親切なバスの運転手は、ニコニコしながらバスを止めた。「若いね!」そう一言いい払った。

バスの中の傍観者に見守られながら、バスを降りてさっそうと彼女のもとへと走る。

バス停には、お菓子を持った彼女がたっていた。

「なんで帰るんよ。あげないわけないやんか!」

一言目から凄い剣幕で怒る彼女。けど、俺は嬉しかった。そうやって怒る彼女の姿も、俺にはまぶしくみえてならない。春の日差しに映える彼女の姿。全てが嬉しい。今こうして、彼女の前に立っていられることが。

後ろを見ると、なんとあのバスの運転手、俺が帰ってくるのを待ってるじゃありませんか。おいおい、いくらなんでもそれは余計なお世話だぜ。

お菓子を貰うと、ダッシュもダッシュ。Bダッシュでバスに戻る。ジロジロ周りのお客さんに見守られながら、自分が出た出口から運転手なんかに軽く会釈しながら入る。

そしてバスの中、まだ息も整わないうちに、彼女に一言メールした。


「ほんま、恥ずかしかったわ。」


それから彼女と付き合い始めたのは3日後。これもまた無神経な彼女相手だから大変だった。

愛の告白をしようとしている俺の思いを知ってかしらぬか、「ちょっと話があるからあの喫茶店に来て」って言ってるにもかかわらず、「えーイヤやし。そこのファミレスでええやん」とか調子にのっていいやがんの。ホントこれには今でもたまに困らされる。

この春休みは本当に長かった。少なからずや、彼女と一緒にいる時は時間を忘れている。


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はい、みなさんこんばんわ。ヒロです。新学期をむかえたみなさん、新生活をむかえたみなさん、元気してますか?

さてさてこの話なんですが、「マジな恋愛して欲しい」という5月の最初に書いた日記に出てくる俺の親友が語ってくれた初めての恋愛談です。余りにもドラマ心の無い彼なんで、ここは一つとそれらしく恋愛ものっぽく頑張ってみました。どう、ちょっとは感動してくれましたか?

このカップルなんですが、5月10日現在では今のところ健在です。ムカツクくらいのバカップルやっております。彼が幸せ太りしていく姿を見ていたら確実にそれがわかりますね。

しかしまぁ、あまりにもドラマチックでいい恋愛話を聞かされた俺。どうか2人に幸せになって欲しいと切望してならないわけですよ。

ってなわけで12個入りのコンドームを2つほどプレゼントしてやりました。

俺には使いこなすことができねぇシロモノだぜ。っていうか使わねぇし。

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