愉快なオッサン

2003/05/02

天気も好調で最高のゴールデンウィークを迎えてるこの日、街のとある小さなドーナツショップでは100円セールやら半額セールやらで大忙し。このお話は、そんな小さなドーナツショップのお話である。

いつものようにヒロさんは、物凄い勢いでドーナツを作っていました。ツッコミを入れる隙もないような怒涛の勢いでドーナツをハァハァ言いながら必死なる想いで作ってます。そして目の前ではフレッシュ極まりないおねえちゃんがドーナツを売っています。

今日もいつものように平凡に一日が過ぎるのだろう。そう普通に思いながら働いていました。今日もいつものように・・・

「ウィーン」

自動ドアが開くと、少し年の行ったおっさんがやってきました。

「いらっしゃいませーー!」

フレッシュな声が店内に響き渡ります。俺もドーナツなんかを作りながらチラっと前を見てみました。

その男は昼間だというのにビールなんかを片手にもって顔なんか真っ赤にしてもう目も当てられない。可愛そうって言っちゃいけないんだろうけど、こんな姿見たら誰だってきっと同じこと思うにきまってる。

「フレンチクルーラー下さい。」

ニヤニヤしながら男は言った。すると目の前にいたフレッシュガールが「ありがとうございます」っと社交辞令に会釈する。この程度なら普通の光景だ。いやたしかにニヤニヤしながらってのは明らかに不審な気がしますけどね、こんなイベントそんなもん普通も普通なわけですよ。毎日働いてたらしょっちゅう見る。そんなもんちょっとキレイなお姉さんに笑顔で「ありがとうございます」なんていわれたら少し変態がかった人なら確実にニヤニヤしてるからね。もうね、全然普通。

しかしこのおっさん、次の瞬間ありえない行動にでた訳ですよ。

「ちょっと姉ちゃん、ワシちょっと気になることがあるねん。ちょっと見てくれ」

一言男は囁くと、カバンの中をしきりに見せ付けてくる。後から聞く話では、カバンの中には大量のビールの缶なんかの残骸が入ってたらしい。ビールでカバンの中はグチャグチャに湿りまくってたと。

うむ、この男変態だ。

俺が変態だから何か繋がるものがあるとか別にそういう訳ではないが、オーラがもうそんな感じですよ。ってか自らそんな汚いもの見せて悦ぶ時点でそれそのものじゃありませんか。変態ですよ変態。フレッシュすぎるミスドの店内、ただでさえ男集団が汚らしく見えてしまうようなこの雰囲気にこんなわけのわからん男がきたらそんなもん犯罪級の変態に見えますよ。危ないその男に周りのバイトおなごたちが脅える。

男はそして、永遠とくだらない話を繰り返し続けた。そんなもんキレイなおねえちゃんとお話できるんだったら、フレンチクルーラーでも何でも買ってやれるよって感じだろう。この男ひたすら訳のわからない話を続ける。

そう、孤独なのだろう。誰も自分の相手をしてくれない。こんなサバイバルな時勢、ミスドの店員のお姉さんほど自分を癒すことのできる人間などそそうにいないといった次第だろう。いつでも微笑んでくれるし、いつでもやさしいし。

癒されたい、ミスドのお姉さんに癒されたい。その想いが深まる故に、男は誤った道へと進んでしまった。

すると横で一緒にドーナツを作っていた女先輩、とっさに止めに入った。

「すみません○○さん。自宅から電話が入ってます。」

なかなかナイスな作戦だ。電話ともなれば急ぎの用。さすがにおっさんもこれ以上喋ろうという気にもならないだろう。

女先輩のグットジョブのおかげで見事急死に一生を得た。・・が、事態はとんでもない方向へと進展した。

こんどはこの女先輩が餌食になったのだ。

永遠と続く男の一人トーク。それに合わせて「はい・・ええ・・」っと適当に返事を繰り返す女先輩。完全にドロ沼にはまっている。

しかしながらこの男性よっぽど寂しかったのだろう。世間のはみ出者なのだろうか。家族に捨てられたのだろうか。いずれにせよ、この男いったい何がやりたいのかわからない。

今度は俺が止めに入った。こう見えてもですね、こういうハプニングにはかなり強いのですよ俺なんかは。この前店内でゴキブリが出現した時も、笑顔で「いらっしゃいませ!」っとか言いながら、左手はお客さんの死角なんかで物凄い勢いでゴキブリ退治してみせたり、まぁ例えが悪かったがとりあえずアレなんだよ。こういうハプニングは任せろって感じなんだよ。わかるか?

だから俺もとっさというかなんというか、無性に危機迫る何かを感じたんですよ。絶対今からとてつもなく大変なことが起こるって。嫌な予感が頭をよぎったんです。

手に持っているドーナツをトレーに置くと、先輩のもとへと急いだ。俺が止めなかったら、代わりはおそらくいないだろう。

「失礼ですがお客様・・・・」

そう全ての言葉を発しようとした瞬間、事件は目の前で起きていた。


もの凄い勢いで腕をベタベタ貪るようにさわりまくる変態オヤジ。右手で握手をするふりをして、動けなくしたところで手をベタベタさわりまくる。いやらしい手つきで。

セクハラだ!これは間違いなくセクハラだ!

そう想った瞬間、何故か知らないが俺の右腕はオッサンの手首をつかんでいた。いやこの女先輩を守ろうとかそういう本能とかじゃありませんよ。俺そんなに紳士な野郎じゃありませんから。ただ、とっさに何故かそのおっさんの腕をつかんでたんですよ。ものすごい力で。

で、俺は言ったんです。「お客様申し訳ございません」

何故かあやまってました。しかし謝ってるくせに俺は腕を離しませんでした。もちろん存分のスマイルを投げかけてましたよ。そんなもん俺だっていちおうプロの接客心がけてこの道進んでるわけですからね、お客様へのスマイルはけっして忘れませんよ。

「申し訳ございません。」そういいながら腕を力いっぱい握る俺。それでもセクシャルに腕を動かそうとするオヤジ。静なる戦いが始まった。

「申し訳ございません。」そういいながら俺はぞんぶんのスマイル。もちろん目は「死ねオッサン。16回は逝って良し」と訴えかけている俺。

「申し訳ございません。」そう言われながらも、ニヤニヤしながら腕をしきりに動かそうとする変態オヤジ。もはやスキンシップにも度がすぎたセクシャルなハラスメント。間違いなくこいつはキチガイ。

「申し訳ございません。」ただただ謝りながらも腕は物凄い力で握り倒すおれ。スマイルがどんどんと崩れてゆく。

「申し訳ございません。」そういわれながらもオヤジはひるまない。セクハラを続行しようと腕を物凄い力で動かそうとする。

しばらく暗黙が続いた。

どれだけ時間が流れただろうか、おっさんは腕を離した。そう、俺はセクハラオヤジに勝訴した。先輩を助けようとか別にそういうつもりではない。ただただ変態オヤジと戦うというただそれだけのスリルが快感へと・・・そして今、目の前の変態オヤジをやっつけた。俺は勝利の快感に浸ってるわけですよ。

「あーあ!酷いミスドや。どうせテレビなんかで変なオヤジが営業妨害したとかそういうことするんやろうな。ちょっとお話してるだけやのに、酷いミスドや。ワシがせっかくこの姉ちゃんとお話してるのに、なんやねんこの男は!」

突然怒りを露わにするオヤジ。怒りにプラス酒も助けて、顔をゆでだこのように赤くして怒り狂うオヤジ。

大声で怒鳴る。「あーあ!酷いミスドやわー!ああーーあ!」あきらかに営業妨害とも思えるような酷い大声。酷い畜生。愛し誇る我がミスドをこのような形で侮辱するこのオヤジ、本気で死ねと思ったね。殺したいとか思ったね。けどダメですよ。こんなダメオヤジでも一応お客様なのですから!!

怒りの矛先は俺へとむけられた。そして次の瞬間、オヤジは・・・!

俺の胸を平手で優しくなでた!

・・・!?

アレ?なんでこのオヤジ俺の胸なんか触って喜んでるのだ!おいおい!ちょっと待った!

チクビなんかを意識して貪るように触り狂うオヤジ。

硬直する俺。

オヤジは俺にセクハラをしていた。人とのスキンシップが足り無すぎた故に、このオヤジは俺にまで求めてきやがったのだ。物凄いセクシャルにおれの胸を揉み解す。モミモミパフパフ・・・

「(ギャ、ギャーーーー!!)」

無理矢理悲鳴を押し殺す俺。時の止まった周りの空間。

10秒ほど触って満足したのか、オヤジは満面の笑みを浮かべて店を立ち去った。時の止まったミスドの店内。

動物を飼っている家の人間は、動物とのスキンシップによってストレスを解消できるという。今の変態オヤジがやったのは、俺の胸を触りスキンシップをすることによってストレスを解消した。そう解釈できる。

世の中触るという行為でここまで救われる人間がいるのだ。だがその触るという行為の一つで、変態というとんでもない道へ進むことになる。例えば電車のちかん。例えば上司のボディタッチ。

テンションの歪んだ店内。そこで俺はそう悟ったりするのでした。オヤジによる男セクハラ。そこから悟ってみる午後の昼下がりだった。 home