ルームサービスメモリー3

2003/04/29

「この料理2218号室に運んでね。」

そう言われて一つのテーブルを渡された。上には豪華なオードブルに華やかなフルールの盛り合わせ、それに大量の豪華ワインがのっている。

いくら一流ホテルとはいえどもね、こんな素晴らしい料理なんてそうめったに頼まれない。コレを頼んだ人はきっとスゲーリッチな野郎に違いない。指にはナントカカラットとかいうスゲーダイヤモンドが刺さってて、サングラスなんか常に常備、部屋に入ったら窓の外なんかをバスローブ姿で眺めるようなムカツクくらいのリッチマンだ。そうに違いない。

ナイフとフォークをセットして料理も上に乗せていざ出発。料理でテーブルが重いよ!凄いよ!凄すぎる!

第3話にもなって説明するのは相当めんどくさいが、俺はルームサービスのアルバイトをしている。ルームサービスとは、お客様の部屋に料理をお持ちするまさに夢の宅配人なわけです。こうしている間にもお客さんが料理を今か今かと待ち焦がれている。

ちなみにこのルームサービス課、このホテルの中ではなんとまぁ一番女っけが無い課だと言われてます。どれくらい女っけがないのかっていうと、上司の方々はオール未婚。40代でも未婚。唯一高校生卒業して即結婚したSさんだけが妻子を持っているのである。社内結婚の望みを消されるだけでなく、結婚運まで下げてしまうくらいの恐ろしいほどのルームサービス課。本当に恐ろしい。

そんなもんなんで女がいないのかって言いますとね、「失礼します。ルームサービスで御座います」とか言いながら女一人でオッサンの部屋なんかにルームしに行ってみたと想像してみてくださいよ。ちょっと変態じみた野郎なら確実にセクシャルなことやるに違いない。女が一人部屋にいるわけですよ。2人きりになるんですよ。こんな危険なことがありえるのでしょうか!?

そういった具合で、我がルームサービス課は全く女がいない。男子校さまさまのその環境下で、毎日楽しく!?仕事をエンジョイしている。

さてさて話はもどって、スゲー豪華ディナーを運ぶ俺。なかなか重たいねぇ。もうむかつくくらいに重たいわけですよまったくもって。

ちなみにこのバイト、晩飯とか朝飯が無いわけですよ。一日近く食い物食わずに働く仕事なわけで、エレベーターで豪華ディナーと一緒に過ごす時間ははっきり言って己の中の本能との戦いなのです。だからそういった感情を押し殺すためにもムカツクムカツクと念じて念じて。

「チーン」

エレベーターの扉が開く。豪華ディナーで重たくなったテーブルを作業用エレベーターからそーっと下ろす。そして最初はゆっくり、徐々に早くそのスピードを増させる。

「ガチャ」

この扉を開くと、そこから先は客室が並ぶ廊下。ここからは優雅にモデル歩きしながら客室に運ばないといけないのですよ。緊張しますねぇ・・・いやぁこの瞬間だけはマジで。

「カタン」

あ、ここ菓子臭い!

ドアからドアへ猛ダッシュするヤツ。ドアからせんだみつおゲームをエンジョイする声が聞こえる。この階って確実にアレやん。修学旅行やん!

たまに隠れて部屋に移動しようとドアを開けた女子中学生が、俺と目を会わせて焦り頬赤らめながら扉を閉める。これが高校生だったらね、階層自体がいきなりリンスと香水で腐ったような香りなわけです。でもって部屋から出てきてもかなり堂々としているのです。だから一発でわかったね、中学生だって。

カタカタカタ・・・ディナーを運び2218号室に到着。

いやぁ、なんか凄く懐かしい気分にさせられたね。中学時代のあの修学旅行の懐かしさが鮮明に蘇った。元気にしてるのだろうか、一緒にバカやったアイツらは。

そんな風に夢に浸る時間ももう終わり。仕事に戻ろう・・・


コンコン・・・「失礼しますルームサービスで御座います。」

遠くから人がやってくる足音が聞こえる。「カタン」扉が開くと、中から面倒見のよさそうなキレイな女性が出てきた。

「ありがとう御座います戸田様、ルームサービスで御座います。お食事をお持ち致しましたので、中にお入りしてよろしゅうございますか。」

そろそろ慣れてきた丁寧語をさらさら言い払うと、女性に連れられて部屋の中にすすむ。相変わらずオードブルやらフルーツの盛り合わせで重い。ムカツクくらいに重いぜまったく。そう思いながら中にすすむと・・・


「おお!待ってましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

体のデカイ刈り上げ男がいきなり吠える!眼鏡の男も満面の笑みでこっちを見る。ちょっと怖そうな風格漂う鷹女も笑顔こぼれている。

いいなぁーやっぱルームサービスってこういうのがあるからもう癖になって辞めれないんだよなぁ。正直メシも食えなくらい忙しくて給料もそんなによくないけど、お客さんが素で喜んでる姿、こういうのがあるからもう全然OKなんだよ。ほんと夢の宅配人だ。

心から仕事の喜びを感じたそのとき、目の前で信じられない会話が行われた。


「わぁ、やっぱ豪華ディナーのルームサービスって迫力が違いますよね!中村先生♪」「そうですねぇー!フルーツとか凄く美味しそうじゃありませんか!!松尾先生ねぇ!!」「今日はみなさん飲みましょう!」

こ、こいつら・・・教師じゃねぇか!

昔から修学旅行の夜、先生たちは生徒でナイショでビールで飲み会してるなんて噂はもっぱらたってたが、どうやら違うようです。ビールではなく、オードブルとフルーツの盛り合わせとワインとその他もろもろの豪華ディナーで飲み会をしているようです。ノンフィクションでそんなことをやってのけているのです。

いやね、読者の学生率が信じられないくらいに高いからもうどんどんチクっちゃうよ。修学旅行の夜先生は、ワインとオードブルで飲み会をしていました。もう一度いいますか?修学旅行の夜先生は、3000円のワイン数本と5000円のオードブルで飲み会をしていました。どう?もう一度言おうか??

いやね、さっきも言ったけどエレベーターとかあちらこちらでこの豪華ディナーと腹ペコの俺とでサシの本能と本能の戦いを繰り返し、そこを勝ち抜いてやっとの想いで持ってきたわけですよ。本当によく頑張ったよ俺は。

しかしそのお届け先がまさか、学生の誰もが噂する修学旅行の夜先生同士の飲み会現場だとはまさか考えもしなかった。俺が必死に一生懸命働いてるこの今、3212号室のお客さんはセックスしてやがるこん畜生って怒りに青筋立てるような事件もあったが、この程度ならばもう全然許されるのですよ。別に他の人間がなにしようと関係ねぇわけだから。

しかしですね、学生さんいっぱい見ているHP運営している俺が必死に一生懸命血と汗と涙でダラダラになりながら働いてる今、飲み会を開いてる先生を見たら・・・しかもそれがオードブルと豪華ワインだったら。そんなもん他人事じゃありませんよ。パソコンのモニターを目の前に青筋立ててる学生さんやら女学生さんの姿が死ぬほど伝わってくるわけですよ。ありえねぇ勢いで。

けどまぁ、さっきの廊下を見てて思ったけど。教師って大変かもって思った。

廊下に出るなと言えば廊下に出てくる生徒。もう寝ろといえば、いつになっても寝ようとしない生徒。反抗期真っ盛りの野郎を相手にする彼ら彼女らはきっと、精神的にも肉体的にもかなりしんどいと思われる。教師も大変だと。

そうなるとですね、こういう飲み会の一つでもやらないとストレスで学校死してしまいますよ。最近流行ってる教師のストレスってやつがモリモリンとたまってハゲて死んでゆくのです。

だから許してあげてよ。ほんと教師だってがんばってるから許してあげて!

料理を運び終え、廊下を優雅に歩きながら思った。相変わらず扉をひっそりと抜け出す生徒やらせんだみつおと夜の奇声を発する生徒たちのわめき声を聞きながら本当によく思った。先生、、、もう今夜は死ぬほど飲んでくださいと。

しかしまぁ、最後にひとつだけどうしても気になることがのこったのですよ。

あの豪華なオードブルやらフルーツのお金ってどこからきてるのだろう。やっぱり、生徒のお金なのだろうか・・・

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