ルームサービスメモリー1

2003/04/20

人生ってのはドラマとドラマの繰り返しだと思う。

急にロマン溢れる言葉使う俺だけどね、ほんと思ったんですよ。人生ってドラマが満ち溢れてるもんだと。だから今日はそれについてちょっと語ってみようと思う。

知っている人もいるだろうけど、俺は一流ホテルのルームサービスのアルバイトをしている。アルバイトとか言ってる癖に実際中身は会社みたいなもんで、しっかり課長に頭とか下げたりするんですよ。ペコペコペコペコ頭さけながら「ヒロ君、今日はキミにビールをおごろう」っとか言われてお酒とか呑んだりするんですよ。

さてさてそんなことはさておき、その一流ホテルのルームサービス。人のお部屋に熱々のお料理を届けるまさに戦争。いかに冷めずいかに原型をとどめたままでお客様の前に提供するかが我々の戦いなわけです。テーブルは俺の体の一部になったんじゃないかと言わんばかりに、俺自身もテーブル押しさばきはけっこうさまになってきたはず!っていっても下っ端をやってるのは言うまでもないけど。

さてさてそんなルームサービスを支えるのは、料理を作る厨房。

注文されてからいかに早くそしていかに丁寧な料理をするか厨房も戦争。男たちの炎にむかう戦いは毎日くりひろげられてます。料理の鉄人とかに出たことあったっぽい人とかがフライパンからメラゾーマとか出しまくって汗とかもギトギトに出しまくって全精力を料理に注ぎ込んでるんです。

しかしそんな厨房にももちろん下っ端はいます。これはどの世界にも絶対にいる切っても切れない地位なんですよね。上がいたら絶対に下っ端はいるんです。この厨房にもどこにでもいるような皿洗いの下っ端がいました。ごく普通にギトギトの汗流しまくって手を洗剤でボロボロにしまくって下っ端ライフをしまくってたんですね。

彼の名前は・・むむむ、覚えてねぇ。しかし周りが「おい純!全然皿洗えてねぇじゃねぇかゴラァ!」って呼んでるから、俺も彼を純って呼んでる。まだまだ遊びたい俺とおなじ18才。

このバイトに入って一番初めにできた友達というのが彼だった。同じ下っ端同士というのもあってか逆に彼しか友達にできそうな人間はいなかったというのが正しいかもしれない。

純とは上の人間が煙草でも吸ってくつろぎに行って、いなくなった時なんかを狙ってよく話しをする。俺も上の人間がいないのを狙って話しかける。お互いめったに話をすることはないが、ちょっとだけトークを楽しめるその瞬間はすごく楽しい。時間を忘れることができる。

フリーターになってからというもの、友達がすっかりいなくなった俺。周りに俺と同じ年の人間だっていない。いたとしても俺が早く入ったというのを理由に同じ年であるにもかかわらず敬語なんかをしこたま使ってきやがる。そんな俺が久しぶりに触った友情ってやつかもしない。少ししかそれは無いけど、彼と話しをするのが楽しくてたまらない。

純と俺には共通の友人がいる。ちょうど俺が高校一年の時、クラスにいた友達と純が親友だった。しかし俺自身クラスにいたその友達とはほとんど喋ったこと無いので実際どうでもよかった。

純がよく俺に「あいつ元気なん?」とかよく聞いてくるけど、そんなもん俺だって3年間会ってねぇわけだから「わかんねぇ」って答えることしかできない。

「またあいつと遊びてぇなぁ・・・」皿を洗う音に半場消されながら彼はつぶやいた。厨房の下っ端の彼もきっと暇なんて無いに違いない。中学時代、時間を持て余していた青春時代。だれだってあの頃にもどりたい。

ある日純は語ってくれた、俺にとってどうでもよかった共通の友達のの中学時代を。俺にとってはどうでもいいことだったが、その話を聞いた時俺は一瞬我を疑った。

その友達っていうのはかなり背が低かった。もう普通に低いなんて領域ではない、かなり背が低かった。しかし背が低かった彼でもラグビー部に入り、背が低いがかなり体がガッチリとして厳つい野郎になった。喧嘩とかしたらボコボコに負けそうなくらいにすげーマッチョな体してやんの。

背が低いなりにも彼はそこそこのポジションにいた気がする。たしかに人数の少ないラグビー部だったが、かなり背が低いというリスクを背負いながらレギュラーになることはおろか、そこそこのポジションについてた彼は凄い人だったと思う。今思えば・・・

その彼は中学時代、野球部に入っていた。

しかし、野球部時代の彼はこんな凄い人ではなかった。いや、凄い人になりたくてもなれなかった。何故なら彼は松葉杖生活をしていたからだ。

足がかなり悪かった彼は、松葉杖なしで生活ができなかった。毎日松葉杖なんかをついて学校に行き、普通の友達に混じってはしゃいでたりしていた。中学ライフをバリバリエンジョイしていた。

松葉杖をついてても全然普通の中学生をやっている。だが一つだけ、どうしても乗り越えられないところがあった。

野球部で一塁まで走れないこと。普通の人間としての生活はおろか、普通の中学生も完璧にできたのだろう彼の松葉杖人生だったが、これだけはこなすことができなかったという。

この光景は純の頭に未だ消えることなく鮮明に刻み込まれている。中学時代の友情がそうさせているのかもしれない。

しかし俺はそんな光景など全く知らない。ってか松葉杖と高校に入ってからの彼のマッチョな姿なんて到底フィットしない。彼が松葉杖生活を送っていただと??そんなひ弱に見えない。なぜなら彼は高校でラグビーをエンジョイしまくってとんでもないマッチョな姿。俺は彼のそんな姿しか見ていないから、そんな姿などうやっても想像できない。

別に同情するつもりで言うわけではないが、彼は本当に凄い人だったかもしれない。純粋に彼は凄い人だ。松葉杖あったからこそ彼は背をリスクにせず巨体の中を戦うラグビープレイヤーとして立派に戦えたのだと・・・

純は再び呟いた。「またあいつと遊びてぇなぁ・・・」

そして又同じことを繰り返すように言う。「あいつ元気なん?」

もちろん俺は断言した。「アホほど元気やな。」

言うまでも無いが、俺だってもうずっと会ってない。しかし俺の中には確実に元気というよりむしろ怒涛の勢いで走りまくる一人のラグビープレイヤーの姿が鮮明に焼きついている。彼の姿を見て元気以外の表現などもはや無い。

「そうか・・・」何か言おうとして、俺と純は素早く仕事に戻った。上の人間が厨房にやってきたからだ。

「おい純!オメェまた皿洗えてねぇじゃねぇか!こんなんでいいと思ってるのか!!」怒鳴る料理の鉄人。うつむく純。しかし純の目はキラキラしていた。

お互い仕事もできなければ、年も経験も少ない。世の中ではスゲー小さい人間をやっている。

小さくて小さくてゴミみたいに小さい俺だけど今目の前にうつる光景をみて少なからずや断言できる。純は絶対にすごい料理人になる。小さい人間が小さい人間をデカクなるなんていってもバカが何吠えてるんだってツッコミ入れられるのがオチだろうけど。

いつか凄い料理人になった時、俺も凄い人になって高いマネーなんかを支払っていいメシを食える日がきっとくるだろうととりあえず断言しておこう。

彼が言おうとして言わなかった「そうか・・・」の後を知るのはその後でも遅く無いはず。

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