生意気なガキに
2003/04/08
朝から土砂降りの雨。
昼間だっていうのに夜じゃねぇの?ってくらいの空。真っ暗の空。今日のバイト先のミスドは、そんな空に比例するかのように張り詰めた雰囲気とテンションに見舞われていた。
今日我がバイト先ミステァードーナツに、「エリアマネージャー」とかいうお偉いさんがやってくるのです。
マクド○ルドやら吉○家にはそれはそれは愉快極まりないロンゲな兄ちゃんやらそれはそれはミラクル極まりない金髪のねえちゃんやら色んな人がいるんですけどねぇ、我がミステァードーナツカンンパニーはそんな人材許さないのです。
男とか強制刈り上げ。本当にありえないとおもう。けどそうでもしないとこのサバイバリーなミステァードーナツを生きてゆけません。生きてゆく術なのであります。
金髪やらロンゲやら、そういうのを排除するのがこのエリアマネージャーとかいうお偉いさん。たまにお店に徘徊して、もし発見したならその場で首を言い渡します。その場で排除してしまうのです。なんと恐ろしいことやら。
俺は以前から言ってるように完璧な刈り上げ男子。自信持っていうが俺みたいな完璧な刈り上げ野郎なんてそそうにいないはず。誇り高き刈り上げ人生歩いてる俺です。
だから絶対に排除とかありえないわけです。しかしなんとまぁ不安なこと。もしここでミステァードーナツカンパニー辞めさせられたら俺はどうなるだろう。今まで先輩に弄られ続けたこの4ヶ月間はなんの報いもなく終わってしまうのです。そう思うと不安で不安で。
それにね、街の小さなドーナツショップやってるうちのミスド。小さい上にこの厳しい規制で人がほとんどいない状態。それで首の人なんかでようものならそんなもんうちのドーナツ屋は閉店ですよ。閉店極まりないですよ。
ギリギリ崖の上を行くように。むしろはいずり歩いてるような我が誇り高きドーナツ屋。ここで潰してたまるものか。そういった意味でかなり今日は張り詰めています。受験生一人でもいるんじゃねぇの??ってくらいにかなり緊張モードで満ち溢れております。
「いらっしゃいませ」の声に気合いが入ってます。
ドーナツを摘む手にもかなり力入ってます。
そんな中に一人のお客さんがやってきました。まだ小学校3年生くらいだろうね。オカーハンとかに連れられてドーナツ食いにやってきてるんです。
いやーなんと微笑ましき光景だろうか。ほんと癒されるわけだ。マイナスイオンとかモリモリ出してるんじゃないのかといわんばかりに癒しき親子なわけである。
少しだけ緊張感がほぐれた。・・・そう思ったとき。
その親子のうちの息子の方がテクテクとこっちにやってくる。小学校の体操服とか中に着てるまさしく小学生そのものな頭悪そうなガキが我が物顔で堂々とこっちにむかってくる。
結構混んでたんですよ。人でひしめき合う店内。その中大人たちの体の間を器用にすり抜けてこっちに向かってくる。一体何のようだろうか。
きっと喉が渇いたのだろう。コールドドリンクとか最初に飲み狂ったせいで最後まで飲み物が残らなかったに違いない。仕方ない野郎だぜまったく。ほんと可愛いヤツめ。
「スミマセーン」
店内に響き渡る大声で怒鳴るガキ。どこまでも響き渡るような高い声で怒鳴る。
「少々お待ち下さいませ。」
とりあえず待たせる。だってお客さんとか行列を作ってるわけですよ。目の前でお客さんにドーナツ売ってるのにそっち優先とかありえない。並んでもいないやつを優先するとかそういう類のことやったらお客さんも怒りのケネディ大統領ミサイル3000発になるに違いない。
でも一応対応する。そりゃいくら並ばなかったとはいえどもね、たかが景品交換。手にミスド特製のラッキーカードもってたからすぐにわかったよ。景品交換なんて並ぶような用事でもないはず。だから今のお客さんにドーナツ売り終わったらチョイチョイと交換してやろうと思ったんです。お客さんだって罪のない子供に怒鳴り散らかすようなことはしないだろう。
しかしそんな俺の情も知ってか知らないのか、さらにこのバカ小学生。
「スミマセーン。聞いてるの??」
「少々御待ちくださいませ。」
いやいや反応してるじゃないかガキ君。待てって言ってるのが君には理解できないのか?最近の小学生は待つというイヌでもできるような行為ができなくなったというのか?
まぁまぁでもまだ尻の青いガキ。そんなわがままの一つあっていいだろう。そんなもんドーナツ食べまくってやっと手に入ったラッキーカード10点分だ。景品早く欲しくて欲しくてたまらないにきまっている。
「あのーはよしてやー」
相変わらず雰囲気の読めないガキ。しかしこのお客さんを終わらせないことにはそっちに行けない。だからこういうしかない。
「少々御待ちくださいませ。」
どこまでも頭の悪いガキでもすぐに理解できるように声を大にして言ってやった。ここまで言ったのだ。このガキだっていい加減に理解してるだろう。
「はよこいって!」
あー!畜生!生意気なガキだ!300発はタコ殴ってやりてぇ!ほんとムカツクしこのガキ!どこまでオメェ社会ナメくさってやがるんだ。
おいおい、抑えろ俺。たかが小3くらいのガキに何うろたえてるんだ。俺っていうのは18の立派な社会人なんだぞ。完璧な大人とはいえないかもしれないが、少なからずや落ち着きくらいは供え持っているしっかりとした人間。そんなもん小3一匹に踊らされない。
見た目冷静でもって心も冷静なやさしい兄ちゃんを演じてやろう。ふつうの大人ならキミのような常識のない男の子っていうのはしかってやるのが普通だが、俺はやさしいお兄ちゃんを演じてキミにガキとしての権限と誇りというやつを尊重してやろう。よかったな、俺だから許されたのだぞ。
「大変お待たせいたしました。」
お客さんに早々とドーナツを売り少年の元へ向かう。もちろん毎日ほとんど休まず働いて働いて積み重ねた汗と血の営業スマイルをふんだんに顔から溢して少年に微笑みかける。優しいお兄ちゃんをやってあげる。
「おそいって。普通に」
な、なんだこのガキは。っていうか最近のガキってこんな言葉使うのか。ちょっと調子に乗ってみた反抗期盛りの中学生張りのこの口の悪さは何!?小学校3年生っていったらサンタさんは玄関ではなくベランダからもやってくる!っとかファンタジー性に溢れきった純真な心の持ち主じゃないのか?
最近の若者ってのは本当にデキないやつばかりだってよく大人が口々に言うが、俺も一瞬そんな社会にもまれてゆく大人たちと同じことを考えてしまった。最近のガキはって、俺はもう最近の人間じゃなくなったというのか!?最近の人をやっていないというのだろうか!
違う!俺はまだまだ最近の人間だ。18だぞ18。アレだぞ、まだまだテレビの芸能人がお姉さんに見えるピチピチの18だ。こんな俺なんだからこの程度の最近のガキなんかふつうすぎてホントなんでもないね。何さっきは怒りに震えてたんだろう。バカだなぁ俺って。アッハッハ。
「どれが欲しいの??」
ちょっと優しく微笑みながら俺は言った。そんなもんこんな小さな子供に丁寧すぎる言葉は逆に毒だろう。ガキにはガキへの言葉遣いで接するのが逆にマナーだと思う。勿論ガキと同じ目線て囁くように語り掛けるのは忘れてないぜ。いっとくが俺はプロのアルバイターだぞ。プロをナメるなよ。
「あのなー2つ貰えるんや。20点貯めたから。」
まぁなんとかわいらしいことだ。20点貯めて誇らしげにラッキーカード見せ付けてるじゃありませんか。昔ポケモンカードとか遊戯王カードとかでパラレルレアやらそれ類が出たときに誇らしげに近所の友達に見せ付けるあの友達の輝いた目。今の少年の目はまさにあのときの嘘の無い純真な目じゃないか。
さっきは生意気だとかバカなガキだとか言ってすまなかった。悪かったなぁー!兄ちゃんやっぱり悪い人だ。一瞬話しただけでこんなに小さなキミを悪者扱いして。世の中に出すぎて君のような純真にな部分をすっかり忘れてたよ。汚されたんだな俺ってすっかり自覚したよ。
どれどれ!兄ちゃんに言って見なさい。どれが欲しいんだい?ドーナツ20点ためるくらい食うなんて相当苦労しただろう。兄ちゃんが特別キレイなのをチョイスして君にプレゼントしてあげるよ。っといってもどれも同じ品質だがな。アッハッハ。
「じゃあ2つ選ぼうか!」
ニコニコしながら微笑む。「え?もしかしたらこいつショタコンじゃねぇの?」って世間の大人に怪しまれるくらいにすげー微笑を投げかけてみた。もうね、純粋な心を持ったガキを前に俺のネジは完全に取れてたね。めっちゃニコニコ微笑みきってやったよ。
「わかっとるわ!ちょっと待って!」
おうおう。焦らずゆっくり選べ。誰もあんたが選ぶの遅いからって責めないぜ。っていうか責めさせやしねぇぜ。
たしかに今は行列だ。昼飯やらOLさんのアフタヌーンティーやらでピークに達した店内。さっさとドーナツくれ!ってお客さんも怒り狂うところだが、小学生一人にわざわざ怒涛の怒りを見せるような大人気ない人間なんかここにはいないはず。
「これとこれ頂戴!」
まだまだ幼い手つきで必死にチョイス。っていうかどこ指してるのかわかんねぇよ!なんか微妙な方向を指差すガキ。そんなもんわからんものはどうしようもない。とりあえず適当に2つ選んでもちよってみることにした。
「あ、それちがう!」
いきなり即反論。まぁそれくらい承知してるぜ。だってあんたどこゆびさしてるんだか全然わかんねぇんだもん。
「その赤いヤツ!」
赤いヤツって言ってもね、赤いグッツってのは2つあるんですよ。どんなのかは伝えにくいから直接ミスドのHP見て確認してくれるのが早いんですけど、赤いグッツ2つもあるのに赤いやつって言われても理解不能。マクドに行ってハンバーグが入ってるバーガー下さいって言ってるのと一緒なわけです。テリヤキバーガー、ハンバーガー、チーズバーガー、マックスター、ダブルチーズバーガー、ビックマック、ダブルバーガーって数えたらキリが無いくらいあるわけで、そんなもんチョイスしきれてねぇよって怒り狂っておきたい次第ですよ。
「赤いヤツだって!オメェ赤もわかんねぇの?」
いやいやどっちも赤だから。
「バカじゃねぇの?赤くらい誰だってわかるやん。赤やで赤。そんなんもわからんのか?」
プチン・・・・・・
「ごめんね!兄ちゃん赤わかんないや!とりあえずこれわたしとくね。」
無理矢理赤いグッツを全部なする俺。こんな頭の悪いガキを連れて行った母が悪いのです。息子には商品を選ぶ能力がなかったと。返品されても困るよ。だってね、この息子さん赤赤しか言わないんだもん。赤もわかんねぇの?って言われたから赤い商品全部くれてやったよ。これで文句言われても困るって。赤い商品下さいって言ったら赤い商品貰ってすごく困ってます。ってそんな訳のわからない質問は俺は受け付けない。俺じゃなくてもね、誰が聞いても意味不明だと思うよマジで。
マジ文句あるんだったらフリーダイヤル100番100番に電話してくれてもいいから。「赤い商品下さいって言ったら赤い商品貰って困ってるんです」って言ってみな。
・・・。。
おおっとアブネェや。何ガキ一人に握りこぶし血管走らせてるんだ。ほんと俺ってバカだね。アッハッハ。
張り詰めた雰囲気。その緊張感をほぐしたのは一人の少年だった。見事なまでの生意気口調。大人をナメてかかったその性格。10も年が離れているであろうそれにコケにされたことに戸惑いを隠せない。
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