コーンクリームな恋

2003/03/30

はっきり言って今回の新人は組み折ばかりだ。

未だかつて女に恵まれなかった人生。デブィな体系から女に避けるような中学時代、そして体系は完全に普通の体系になったにもかかわらず全く女と関わる機会が少なかった男子校の高校時代。はっきり言って俺は女から隔離された道を進み続けていた。

だから女性と気軽にお喋りとかありえない。女性と午後の昼下がりに一緒にティーをすするなんて本当に夢もまた夢だ。どうやったらあんなふうに気軽にお喋れるのか理解してみたかった。

今、俺はミステァードーナツで働いてるのもあってか、かなりその女苦手は解消された。女性の女性による女性のためのフード店。働くのもほとんど女性であって、お客様もほとんど女性という女性一色な店の中で働くのはある意味のショック療法。みるみるうちに俺の女性苦手は解消されてきた。

以前も言ったが今では「あれー?ちょっと太っただろ??」とかちょっとくらい無神経なこともジョーク感覚で言えちゃうようなデリカシーのない俺の実態がツルツルのほどかれていく次第である。もはや以前の女性苦手な俺は消え去ったも同等。

しかしまだ解消されぬ部分もあった。そう・・・

同じ年、またそれよりも年の若い女性だ。

今までは女と話すのは余裕と思っていた。女性のパンチラだとか女性のオッパイを突然モミ手繰るなどのセクシャルなハラスメントは余裕ではないが、ちょっとしたジョーク感覚の軽いシモくらいは言えるくらいの余裕は持て余していたつもりだ。誰がみてもそう見えるに違いない。

だがバイトをやりはじめてとうとう3ヶ月。いよいよ新人も出現して、当然18以降が規制となっているうちのバイトのことだからモリモリ新人がやってくるわけですよ。俺と同じ年の新人が。

話せない。今までは女先輩に「俺ちょっとトイレ言ってきまス」とか「○○さん休憩ッスよ」みたいに敬語なんかを用いて先輩先輩と言ってりゃなんとかなった。だがしかし、今回は同じ年齢。もはや今までのような軽い流しは通用しない。

しかも新人は組み折だ、可愛い子ばかりである。新人の登場で俺の胸は常にドキドキ。常時ドキドキ。新人さんが純粋に俺に「これってどうやったらいいんですか?」って敬語なんか使って質問してくるわけですよ。けども俺の高まる鼓動は正しい判断すらも見失う。何いってんだか自分でもホントわかんねぇ。

そんな時だった。


じゅどぃーん。

怒涛の爆発音。一体何がおきたのだろうか。

「ごめんなさい・・・」

そのとき俺の胸はときめいた。

顔をゆがめながら新人の一人が半場泣き出すんじゃないかって顔で切なげに、上目遣いで訴えてきた。その先を見ると、電子レンジの中では見事コーンクリームスープが大爆発を起こしている。表もコーンクリーム。天井もコーンクリーム。何もかもがコーンクリームでおおいつくされているその電子レンジ。え、電子レンジがコーンクリームになったんじゃないの?ってくらいにレンジはコーンクリーミィ極まりない豊かな香りをかもし出していた。

通常コーンクリームスープというものは、フタをしてからレンジにかけるのが一般常識だが、まだまだ未熟な新人。習ったのはたしかなのだが、沢山ありすぎてついつい失敗してしまったようだ。ドジな失敗。

ちなみに過去ホットミルクを沸騰させて恐ろしいことをしたことのある俺。「あーあー、もうそれくらい普通普通!俺とかもっとドジってるからそんなに気にせんでいいって」とか余裕かましてみたりする。もちろん俺のオーダーが失敗作になったわけだから通常だったら怒りのブッシュ大統領なわけですよ。

しかしドジな彼女がドジなりにも一生懸命俺のオーダーのコーンクリームスープを作った。たしかに失敗はしたんですよ、けどそのコーンクリームスープは彼女の決死の想いであり血と汗の結晶なわけです。

そんなもん怒れない。怒る気にはなれない。

「ごめんなさいごめんなさい」と悲しそうに謝る彼女。嗚呼、俺もうやばい。完全にこの子にときめいてる。

新人の後輩がドジで失敗して先輩に謝ってるわけですよ。こんなシチュエーションあっていいのだろうか?萌えているというわけではない。純粋に女後輩というものを持ったことの無い俺の純なトキメキ。初めての女後輩を持ったというその設定が俺にとっては、卵から生まれた瞬間から動いた物を親と思う一種の刷り込み現象のようなものである。

久方に訪れたトキメキ。

フリーターになってからというもの俺は一度だって恋を感じたことがあっただろうか。いや、確実になかったはずだ。

夕方は16時に眠り22時に目を覚ます。23時からは深夜のアルバイト。そして次の日深夜のアルバイトが終わるとその足で直接ミスドのアルバイトへ向かう朝6時。それが終わると丁度15時。あとは家に帰って眠るのみである。こんな俺に恋をする時間はおろか、恋をする気持ちの余裕すらも無いはず。

そんな俺が久々にときめきを覚えた。

トキメキが始まって以来、俺はあの新人から目が離せなくなっていた。もはや尋常ではない。

レジの横を常にキープ。トレーナーの人がいるにもかかわらず常にその横を俺がキープしつづけた。もはや俺のトキメキはトレーナーなど軽くはじきとばしていた。

横書きになる余りに目の前のお客様のオーダーすらも見失うほどまでその域は達していた。もはや俺を止めれるやつなどいなくなっている。

バイトが終わると彼女が自己紹介をすることになった。ミスドの宗教的な慣わしから自己紹介をする習慣がある。

「こちらでアルバイトさせていただきます○○です。よろしくおねがいします」

キャワイイ声で言ってくる彼女。俺のドキドキは高まる。胸の鼓動は止まらない。こんなにドキドキしたのは学生時代以来だ。

この時期新人が大量に入ってきてもは挨拶慣れしている。しかしこの子だけにはどうもおごつかない。ダメだ。まともに挨拶なんかできやしねぇ。

話がすすむうちに年齢の話が絡み始めた。年齢を知っておかないと上下関係に示しがつかないわけで。


「19です」

え?

同じ年だと思っていた彼女はなんと年上だった。年上から俺は敬語を使われていたのだ。本当に社会の上下関係ってわからない。

「18です」

あわてて敬語を使いなおす俺。さっきまで教える時はめちゃめちゃタメ語使っていたにもかかわらず年上だと知って敬語を使いなおす。そんなもんいくら新人でも年上には敬語使うのがマナーであって険悪なムードにならないための術。

「じゃぁお姉さんですね。」

いや違う!ダメなんだ!俺はそんなシチュエーション望んでいねぇ!

俺は後輩に純粋な気持ちで作ってもらったコーンクリームスープに惚れたわけだ。年上のお姉ちゃんがオラオラって作ったコーンクリームじゃダメ!わかるか!!

姉ちゃんに弄られ続けて乾き続けた俺。トリプルワンと呼ばれる「一番年下」「一番仕事ができない」「一番ランクが下」というありえないジンクスのせいで永久の下っ端と呼ばれ挙句の果てには「おいカッパ!」って変なあだ名までつけられる始末。

そう、俺は年上の姉ちゃんによって心を乾かされているのだ。カラカラに乾ききってもはや俺の心は砂吹雪吹きまくる大砂漠。そんな心を癒すのは年上というシチュエーションじゃダメなんだ!純血の後輩でなければ!

しまいには敬語を使わなくなり始めた彼女。そう、俺の恋は一時間で終わったのだった。レンジのコーンクリームが冷めると共に俺の恋心も冷めてゆく。

新人は組み折だ。だが俺のこのカラカラ乾燥しまくりの心を優しく癒す素晴らしい後輩は未だ現れない。俺の癒しヒットの素晴らしい後輩は現れないかとそう切望してみる次第である。

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