超一流

2003/03/14

今日はなんと一流ホテルの面接であります。

まさかね、バイトマガジンなんかにあの有名な一流ホテルが求人出してるなんて思いもしなかったわけですよ。ほんとに驚いた。ぶっちゃけビビったね。木村風味に

「今月はバイト受けるなよゴラァ」って今働いてるバイト先の先輩が物凄い剣幕で俺に脅しなんかかけてるんですけどね、やっぱ超一流ホテルの面接なんてそそうに受けれるもんじゃないわけですから。いくら人が足りて無くても関係ない。俺は面接受ける。

一流一流とかいいながら時給はじっさいは3流だ。ありえねぇくらいに安い。しかし飯代半額支給や、交通費を2倍分支給などありえない一流権限がいっぱい詰まってるんです。やっぱ一流は違うね。

いつものように愛車「マグナム4号」にまたがり颯爽とホテルにむかう。バイトの面接地ってのは毎回迷ってる俺なんですけど、今回はなんたって一流ホテル。街のどこにいても見えるんですよ。だから迷わず真っ直ぐそのホテルに向かったらいいんですよ。

だがしかし、俺ははっきり言って一流ホテルをナメてかかってた。

一冬を過ごしたボロボロのジャンパーにボロボロのジーパン、頭はワックスでべったり塗りたぐって自転車にまたがってるんです。見るからに3流丸出しの俺が、一流ホテルに向かおうとしたことが間違ってた。一流そんな安易な物じゃない。

だってね、人間用入り口がいつになってもみつからない。畜生、なんだアレか。車を持っていない人は一流を体感するなとそういいたいのか。ナメられたもんだな、俺も。どこ探したって車用の入り口しかない。デッカイ城みたいなホテルを一周したけどどこ探しても車用ばっかりだ。

一瞬ドラクエ1のラスボスの城を思い出したね。目の前にあるんだよ。目の前に目的地はたしかにあるんだよ、だけどたどり着けない。3流の自転車はどうやら立ち入り禁止のようだ。

怒ったヒロさんは、自転車をそこらへんの木にチェーンつけて止めると、車用の入り口から無理矢理進入。まさか一流ホテルの面接の始まりがこんな形で始まるとは思いもしなかった。ほんとうに俺はツメが甘かった。

中に入ると、一流エスカレーターが待ち構えている。一流エスカレーターは手すりの質が違う。そこらへんの真っ黒のエスカレーターの手すりじゃいつ一流貴婦人の手を汚すかわかりかねん。ピカピカなんですよまたね、その手すりがまた。

しかしヒロさん、そんなことで驚いたりしちゃいけない。将来は飛行機のビジネス以上の席に乗って世界を飛び回る凄い男になるんです。その俺がなんだ、たかがピカピカの一流エスカレーターごときに驚いててどうするんだ。

一流エスカレーターで実にリラクゼーションな時間を過ごしていよいよホテルの一階に浸入成功。駐車場は地下、エスカレータで今上に上ったので、絶対にここは一階のはず。

一階は意外と庶民なババが良く歩いてる。田舎から老後の旅行をエンジョイしにわざわざ一流ホテルにやってきましたって感じのオバさまオジさまがわんさかいる。なんだ、ここはまだ一流ではなさそうだ。

俺的にはね。昔のヨーロッパを意識したような貴婦人が歩いてて初めて一流ホテルだと思うわけですよ。したがってそこらのデパートの衣服で身を包んだババさまは全然3流。むしろ5流。こんな人が歩いてるなんて信じられないね。一流ホテル歩くんだったら、せめてもっとフワンソワな服装で着て欲しい限りだね。

たしか面接は3階の係りの人に言ってくれと電話で俺に話してたな。ここは一階。3階に侵入しないことにはホテルの一流紳士にはなれない。

お洒落なエレベーターを探す。

見つからない!なんでどこにも無いんだ!一流ホテルってスゲェ入り組んでるんですよ。だからいつになってもエレベーター見つからない。さっきからずっと同じ場所をグルグル回ってる。

例えるなら、エロ画像欲しさにあっちこっちのHP回ったのに、全然エロ画像にありつけないあれですよ。まさに同じことを俺はやってるんです。しかも一流ホテルの場合は、「エレベーターはコッチです」なんていうダサい看板を取り付けない。

やっとこさ係りの人に聞いて聞いて聞き倒して聞き転がしてエレベーターに到着。中に入り3階のスイッチを押した。

音もなく静かに上がるエレベーター。その動きはまさに一流だった。到着した時になる「チン」って音もそこらの偽者とは音の質が違う。完璧なる一流のハーモニー。

ドアが開いてオレは冷や汗が出た。


違う。

これは明らかに違う。俺って言う人物はここに場違いだ。まずね、ジーパン履いてる時点でかなり場違いなんですよ。なんだこの空気の重さは。なんだこの高級感は。

デッカイシャンデリアがパンパカパーンと天井に花を咲かせて、一流の紳士と貴婦人が華麗にフカフカのジュータンの上を歩く。俺みたいな3流男なんて一人も歩いてねぇ。

田舎者丸出しに周りをキョロキョロしながら歩く。穴があるなら入りたいい。アナルでもいいからなんでも穴があったら逃げ込みたいこの環境は。マジで怖い。

大理石とかでできた高級感溢れるテーブルの向こうでは、美人でセクスィーなお姉さんがお客様に挨拶している。「山崎さまですね。おまちしておりました。」っとかシュツワーデスのお姉さんみたいな口調で言うの。

なんか段々面接受けたの後悔しはじめた。俺はやっぱり受けるべきではなかったのだと。一流?そんなもん俺には一生関係なかったんだ。一生目にしないまま終わればよかったのだ。

段々そんな感情が生まれてくる。こうなればやけくそだ。ある種ナンパより根気のいる度胸。勇気を振り絞ってボーイのお兄さんに話しかける。

「すみません。6時から面接を希望している者ですが・・」

すると最後まで話をする前に、ボーイのお兄さんは優しく微笑みながら言った。

「かしこまりました。こちらへどうぞ。」

正直俺の見た目を見て帰されるんじゃないかとかなり不安だった。しかし意外な反応。一流オーラの欠片もない俺にもステキなスマイルを返すんです。このとき一流の本当のスゴさを思い知らされたね。

デッカイとびらを開くと、中から一流の裏部屋が怒涛の勢いで展開される。もうね、なんか凄いの。

テレビとかアニメとかに出てくる一流ホテルの裏方、まさにアレなんですよ。タキシード着てて髪型バッチリセットしたボーイの人が銀のフォークとか皿が並んでる台をゆっくり誇らしげに押して歩く。

厨房からは炎がバリバリ上がって聞いたことの無いような言葉がバリバリ飛び交い、ブリブリのトンガリめがねで「私はお高い女なの」って風格漂わせたビジネスマンみたいな貫禄いっぱいの女が道のど真ん中を部下従えて歩き。

タキシート仮面みたいな服装の人が「お疲れ様です」ってセクスィーかつダンディーな声で挨拶をしてくる。すると道案内をしてくれてる爽やかな一流ボーイも「お疲れ様です」って低くセクスィーな声で言う。今まで「お疲れッス」しか言った事無い俺だからマジ焦る。

ダメだ。俺全然場違いだ。もうね、なんか一流の空気ってヤツが出てるんですよ。俺が吸っては明らかに体に毒、いやむしろ俺自身が空気を濁しているかのように俺は場違い。俺絶対ここの空気にあってない。

もう一つ扉を開くと、政治家みたいな頭固そうなオジサンとか、キャリアウーマンなエロス漂うセクスィーな女性がパチパチとパソコンに向かう。俺が日記書いてるときとは明らかに違うようなマジな目つきでつれづれなるままにパソコンに向かう。

ああ、ダメだ。俺空気に押しつぶされそうだ。

目の前に凄く偉そうなおじさんが現れる。でもって俺を席にあんないして座るように促す。偉そうなおじさんもテーブルの前に向かい合う形で座る。

「落ち着いて、リラックスしてくださいね」っとか言ってくる。

この状況でリラックスだと?何言ってるんだ!って感じ。もうね、これはマジでバイトの面接なんかじゃない。あきらかに企業とか会社の面接そのもの。履歴書とかパラパラと堅い顔して見つめるんですよ。

落ちた。絶対こんな一流ホテルに採用されるわけ無い。

しかしまぁ、前回のアルバイトの面接といい、今回の一流アルバイトの面接といい、なんでここまで面接官の人かっこいいんだろ。俺は再びあのトキメキに胸をワクワクドキドキさせてた。

俺の胸にはね、いい女やいい男を見たときに「ピコンピコン」って反応するトキメキレーダーがついてるんですよ。でもって今回のこの面接官もレーダーが反応しまくって。ドキドキワクワクしてくる。胸のレーダーなりまくってる。

以前にも言ったが「この人にアナルを奪われたいわ」っとかそういう変質系のワクワクじゃありませんよ。ごく純粋にいい男ってのを見ると自分の中でリスペクトな存在になるんですよ。でもって、話しかけてくるとドキドキする。いい女を見たときとはまた違ったドキドキで。

紳士だなぁ。こんな男になってみたい。

心でそんなことを思いながら、面接は徐に適当なことを言いまくってる。なんか半場落ちる気でいる俺がそこにいた。

しかしこの一流紳士、なんかやけに俺を気に入ってきた様子。俺もね、一応面接っていうからにはきっちり採用されるつもりでハキハキ自分の意見を言いまくるんです。熱く自分のことを語るのが大好きでわざわざHPまで開いてる俺ですからね、よりにもよって面接中に熱くモリモリと自分の話を語ってしまう。

俺の熱い語りに何故か感動する面接官。おい待て。俺の語りでそんなにホットになられたら困るって一流紳士。

「次回は16日。是非とも来てくれ!キミみたいな18にしてしっかりとした意思を持ってる人は珍しい」とかついにおだててきた。たしかに将来の夢を持って生きてる18才ってのは今世間では少ないかもしれない、けどなんでそこまで熱くなってるの!俺なんかに。

今まで面接落ちっぱなしだった俺。今度こそ受かってやるぞと5つ同時に面接うけたら、最初の2つの面接からいきなり連続して採用されてしまった。どうなったんだ俺は。俺の時代がいよいよやってきたのだろうか!!

たしかにね、ミステァードーナツで働いてるせいで髪の毛は刈上げ。でもって毛染めもそんなにかけていない。実際染めてるんだけど、ばれないように薄く赤にしてる。だから完全にむこうの目には黒く見えたはず。

「・・・しかしね。。。」

面接官はボソッといった。


「耳の上も刈り上げてね。髪型はコレが規定だから。」

そういうと自分の紙を指差して見せる。

背筋に寒さが走る俺。ついに来たのだ。フリータ故に好きな頭に全くできなかった俺。カリアゲとかありえないと泣き狂った俺。ついにその上を行く最強のヘアーがやってきた。


30代ヘアー

おいおい、まだまだ遊んでおきたい盛りの18才が、30代の会社員みたいなヘアーをしろと?

正直フリーターになって満足に着るものも買えず髪形も刈り上げにされて、世間体なんかどうでもよくなってきたこの時期。完全に世間体を捨てきれと。精進して完全に世の人間から縁を切れとそういいたいのか。

はっきり言って俺はフリータになったあの瞬間から女を愛するという感情は捨てた。この数ヶ月、女と恋愛したいだなんていっときも思ったことは無い。むしろそういう邪念が浮かぶ暇もないほどに働き狂った。

そして今回。その邪念を完全に振り切ってくれる機会がやってきた。耳上刈り上げ。世の中の女からはキモがられ、初対面の男ですらも俺を見て苦笑いするだろう。

普通なら却下するだろう。けどね、なんか俺変わり者なせいかだんだん胸の奥から何か沸き起こってきたんですよ。俺やっぱり変態だなってスゲェ思った。


やってやろうじゃねぇか。

女がなんだ。たしかに18でしかできない恋愛だってあるかもしれない。けど俺は他とはちょっと違った道を探して将来みんなを見返してやろうと心に誓った。18の青春は捨てる。いつか絶対にスゲェ人になるわけだからね。

その日の夜、俺は髪を切った。耳の上をまるで小学生じゃないかといわんばかりにきれいに刈り上げ、モミアゲすらも残らない完璧な世間外れのヘアーになった。もちろん髪の毛は真っ黒。

これで俺はホテルで働ける。だんだんワクワクしてきた。なんだろうかこのワクワクは。高鳴る鼓動は!めっちゃ楽しみやし。

一流ホテルで一流の紳士になれる。今日はあれだけビビったけど、明日の俺はあそこに溶け込む一流ボーイ。


ホテルの面接から2日たった今日。俺は今大きな不安と戦ってる。

今日、カラオケの深夜の初出勤なのだ。深夜掛け持ちは体に悪いと思ったが、どちらも絶対にやっておきたい職業。だからどっちも断れない。

カラオケの深夜といえば、髪型は実にユーモア溢れてフランク極まりない兄ちゃんやらねーちゃんがいっぱいいるのだろう。そんな中に俺みたいな刈り上げのホテルマン野郎が侵入していいのだろうか。

例えるなら水と油。けっして混ざり合えるような種族じゃない。酷い虐めの一つでもやってきそうだ。

しかしまぁ、その程度のことでビビってアルバイトやめようものなら世の中渡っていけない。人生ってのは常に厳しい物だって偉そうな面して大人も言ってることだし、「俺全然平気やし。社会が厳しいだ?ガキをナメんなよ」って言える様に誇らしげに歩かないといけないわけですから。

だから俺はカラオケをやろうと思う。最低でも4ヶ月はきっちり働こうと思う。

夜の輩でも何でもかかってこいといった次第である。