カラオケの面接

2003/03/13

日本の心は米にありと世は言うね。

だから戦の前の腹ごしらえは「松屋」の牛丼を食らうと普段から心に誓ってるんです。この日のバイトの面接一時間前だって、ごく普通に「松屋」に入って牛を思う存分しゃぶるぞとスゲェ気合いを入れて行ったんです。

しかし正直な話。今日のカラオケの面接はそんなに気が進まない。

今週5つ同時に面接を受けることにしたんだが、メインのミステァードーナツのアルバイトが人少なくて忙しくって、3月いっぱいはできれば掛け持ちして欲しくないなって美しき美貌でそして性格はかなりキツいシフト係りなお姉さんが言ってるんですよ。

最近アルバイトの面接落ちまくりの俺なんで、やっぱりここで一発ケジメをつけようと5つ同時にうけたアルバイト。そのうち3つは断れたんだけど、面接の日程が近い残りの2つはとてもじゃねぇけど断れない。だから落ちる為に面接受けにいったんです。意味もなく。

はっきり言って落ちるために面接とか俺の信念に反してるんですけどね、普段採用されよう採用されようと胸に秘めながら面接受けてるのに対して、今回は落ちよう落ちようと意識して面接受けようとしてるんです。こんな気持ちで面接するの初めて。

今日の面接はどうなるだろうか。・・・そんな不安を抱えながら「松屋」に入ったんです。マジで腹減ってたし。

券売機では牛丼並と卵をチョイス。

「アイヨー」っとか威勢のいい声で卵運んでくるんですよね。気合入ったオネェちゃんが。おちゃとか味噌汁とかスパパパパンと要領よくこしらえてるおねえちゃんが俺のところに卵を怒涛の勢いで運んでくる。

普通その卵ってのは混ぜて牛丼にかけるのが凡人の食らい方なんですけどね。普段から変態だと包み隠さず公開しているこの俺。なんか突然もの凄い勢いでその卵を醤油かけて丸飲みしたいという衝動に駆られたんですよ。

もし俺がここで目の前の卵を丸飲みしたら、この威勢のいいおねえちゃんはどんなリアクションを取るだろうか。卵を持ってこられて牛丼を運んでくる時には卵が無い状態だったらどんな反応を見せるのだろうか。

普段はプロ意識を持って動くこの威勢のおねぇちゃんが一瞬だけ女に戻るのかもしれない。ちょっとエロス混じった声で「えっ!」って言うかもしれない。このおねえちゃんなら間違いなく言ってくれるに違いない。でもって「卵丸飲み」ってタイトルで今日の俺の日記のネタになるに違いないとか超ド変態な妄想を頭の中で展開してたんですよ。

聞きたい。「えっ!」って愛くるしい口調でいうお姉ちゃんの声が聞きたい。

目の前の卵をいきなり丸飲みしてみる俺。オメェはあれか。昭和の時代のオヤジかっていわん勢いでテュテュルルン♪って飲む。ちょっとむせかけたけど、全然関係ないね。「えっ!」ってエロス混じった声が聞けるのならそれくらいのメリットぜんぜんいいや。


テュルルルルン♪


「並オマチ!」

何もなかったかのように牛丼を運んでくる威勢のいいねえちゃん!ダメだ。全然ダメだよ!そんなリアクションじゃ全然日記にならない!もっと俺の妄想をはるかに超えた素晴らしい反応が欲しかった。実に残念極まりないよ。

まぁこんな「松屋」勤務のおねぇちゃんに怒りを露わにした所で、俺の落ちなくてはいけないバイトの面接があるという事実は全然かわらない。たしかに一瞬そのことを忘れさせてくれてちょっとだけ愉快な気持ちになれたんですが、牛を全部しゃぶりつくした後には緊張で指とかブルブル震えアゴもガクガクとビートを刻んでいる。ほんとに一瞬だけだった。

おかしいなぁ。面接なんかしょっちゅう受けてるはずなのになぁ、全然平気のはずなのになぁ。やっぱアレなんだろう、普段の採用されなくてはならない採用されなくてはならないという危機感には慣れたけど、落ちなくてはならない落ちなくてはならないという意識は俺の中では新鮮でありピュアな俺の心をくすぐり、とんでもない緊張を味あわせてくれるんだろう。

俺ってなんてナイーブな男なんだろう。ほんと困っちゃうよね。

エレベーターに乗ってゆっくり上昇。もうエレベーターに乗ったんだ。後戻りなんかできねぇ。

「チン」昔のデパートみたいな豪勢な音を立ててエレベータは到着した。ドアが開くとそこには人のよさそうな店長みたいな店長が立っていた。「いらっしゃいませ」とかどこかの高級ホストクラブみたいな低いダンディーな声で言う、マジで冷や汗が出て止まない。

この冷や汗は緊張じゃない。むしろ恐怖だ。なんだこのホストみたいな場所は。ありえない。カラオケってムードじゃねぇし。

「すみません。アルバイトの面接を受けに来たヒロですが、どちらにお伺いしたらいいのでしょうか?」

ビクビクしながら声をだす俺。

「変だなぁ・・・うち募集してませんよ」


え?

俺やっぱり間違って来てる!同じ名前でありながら違う業種の場所にきちゃってる!カラオケじゃねぇもん。どこ見ても個室ねぇもん。

どうりて怪しいと思ったんだよ。熟女が集うセクシャルな店と、アダルトビデオが見放題な破廉恥極まりない店の間にカラオケが立ってるわけないんだよ。俺ってバカだ。その時点ですぐに気がつけよ。

違うと知って焦る俺。ここで逃走とか卑猥な手段に出たらヤクザみたいな怖そうな兄ちゃんが出てきて、タコ殴りにされるに違いない。ここはやっぱり紳士な男の挨拶で軽やかに逃げよう。

「すみません。お店を間違ってしまったようです。」

「あ、そう?」

「すみませんでした。それでは失礼します」

なんとか血を見ないで脱出した。血とかありえないとか思ってるかもしれないですけどね、あそこはマジでそんな場所だったんですよ。マジで怖かった。

なんとか遅刻だけは免れてこんどこそ本物の面接先に到着。このときにはすっかり緊張なんてほぐれてた。

こっちもまたさっきと同じようにエレベーター。でもって「チン」って高級そうな音立てて到着。ドアが開くと混雑したレジ。うむ、間違いなくここはカラオケショップだ。カラオケ以外のなんでもない。

しばらくして俺が面接希望の相手だとすぐに察して、店長らしいまさしく店長が俺を個室に連れて行く。カラオケの個室に。

またこの店長がまたスゲーかっこいい。大人の色気ムンムンに漂わせてるマジな男。俺は話なんかそっちのけで一人ワクワクしてたんです。惚れたね、男に。

いやね、アナル処女奪われるとかそういう変態性を秘めたものじゃないんですよ。男として惚れたんですよ。こういういい男を見るとですね、いい女を見たときとはまた違った意味のワクワクがあるんですよ。胸ワクワクドキドキしてるんです。

面接の内容は徐に適当なことを言いまくった。もはやこれで俺の採用とかありえないだろうな。しかし・・・


「採用ね!本当なら電話するところだけど、君は即OKだ。」

え、なんで俺店長に気に入られてるの?ありえねぇ。なんで合格してるんだよ!なんで落ちなきゃいけない面接で採用されてるんだ俺は!意味不明じゃねぇか!畜生。

店長はなんか本当に嬉しかったみたいで、ニコニコしている。うむ、これはもはや後には引けそうに無い。すぐには絶対にやめられない。

「・・ただね。。。」

採用とか言いまくってた店長は最後にボソっと一言だけ吐いた。


「深夜のグループって。ちょっと変わってるコばかりなんだ。仲良くやってくれたら大丈夫なんだが。」

え、ちょっとまて。なんか俺、今からGTOみたいに問題クラスに派遣される教師のような心境だぞ。めっちゃ複雑やん。なにこれ!マジでどうなるんだ俺。

「俺頑張りますから!!」

っと答えるんですよね。俺って性格的に人に少しでも期待してもらえるの大好きですからね。たとえ不安でも絶対顔に出せないんですよ。

っというわけで、カラオケの面接は採用に終わったのでした。俺がカラオケとか明らかに場違いな気がするが。


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