涙は時にクリームのように甘く

2003/03/08

「妄想で興奮できる人って変態やな。」っと妹に軽く話題を振られて焦るヒロです。こんばんわ

酷いなぁ、兄ちゃんはいつも妄想に生き、妄想に生命をかけ、妄想に悟りを求め、エロ本は無理でも妄想ではお自慰できちゃうスーパー妄想野郎なのになぁ。ってことはアレか、兄ちゃんはスーパー変態とでも言いたいのか。

失礼な。未だ絶えず関西一の紳士であって女を一度も泣かせたことのないこの兄ちゃんにむかって変態とは。バレンタインデーに一つもチョコ食わなかった時点でそこそこいい線いってるかもしれないが、俺は絶対にオマエの思ってるほどスーパーな変態ではないぞ。変態ではあるがスーパーではない。そう断言しておこう。

さてさて無駄話もそこそこに、本題に移る次第だが。

おとついの夜。ワイングラスはあるが中に入れる肝心のワインが無い事実を知った俺はですね、中に野菜生活100を入れて英国紳士極まりないかっこしてそれらしく飲んでたんですよ。なんでワイングラスなんかが家にあったのかはマジで意味不明。ワインなんかを右手で揺らすほど余裕ある家庭じゃないのになんでこんなもんがあるんだ。ほんと信じられないね。

せっかくあるんだし使ってやったんです。でもって右手に野菜生活100、左手にバイトマガジンなんか開いてたんです。

俺もう決めたからね。今週は5つ同時にアルバイトの面接受けてやる。そしてみんなが「ヒロさんはうちが採用したんだ!こんな大切な人材をあんたのような店にわたせるか!」「いやいや!あんたにヒロさんは渡さない!時給だっていっぱいアップするからうちにきなさいヒロさん!」みたいな感じでヒロさんの取り合いをしてくれるようなイベントをちょっと期待してみたりするんですよ。

しかし最近のバイトマガジンの中身ってのはシケてやがる。前までは深夜時給1000円の嵐だったというのに、今はなんだ。猫の手も借りたい今だけど猫じゃ無理だから仕方なく雇ってやるよって言わんばかりの安時給ばかり。まったくもってふざけてる。

でもまぁ、受けないとフリーターとしての生活に支障をきたす。夢のワーキングホリデーに近づくには安い時給でもいいからわがまま言わないで働かせてもらわないといけないんですよ。そうなると時給関係なしに楽しんで働けたらいいかなぁって感じになってきて。

それならいっそのことみんなが羨むようなスゲーことやってやろうと思ったんです。

いずれは凄い男になると心に決めてるヒロですからね、やっぱ生涯役にやつような凄い技能を身につけたい。まぁヒロさんステキだわってナイーブな心を持ち合わせた婦女なら一発でホレちゃいそうなスゲェ技能が欲しい。

ペラペラペラ・・・・時給に目をくらませないでバイトマガジンを読むこと約10分。俺はスゲーのを発見した。


「一流のマナーが身につきます。」


一流のマナー!?な、なんだって。

さっきも言いましたけどいずれ俺はスゲェ男になるんです。やっぱスゲェ男ってのはね、スゲェマナーの一つくらい持ってて当然。

みんなに昔から「ヒロくんはやさしすぎるのよ」って言われ続けたこの生涯。やさしい一面も持ちつつ、一流でも通用するようなリッパなマナーあってこそ始めてその英国紳士っぷりが発揮されるんだと思うんですよ。なんというか、まさに俺の為に用意されてたんじゃないかって言わんばかりのお仕事だね。俺にしかれたレールだったと。

時給は900円と、深夜でありがならなかなか3流なお値段だが、交通費支給、メシ代半分支給、仮眠5時間まで支給などのあらゆる面で素晴らしい機能も兼ね備えてる。きっとみんな時給に目がくらんでこんな見えない気遣いには目がいかないはず。

なんと言っても一番は、地元でも有名な一流ホテル。一流と名のつくホテル。芸能人とかここに来たらまずここを見るぞって言わんばかりの一流以外名のつかないようなホテル。

おいおい、一流が一般人から一流アルバイター雇っていいのかよって一瞬戸惑う俺だったが、実は最初から俺を入れるつもりでこうやって募集してたと思うことによって細かい疑問は軽やかに解決。もうここは第一希望決定だった。

早速お電話する俺。言葉遣いもミスドで鍛えられたマニュアルにのっとる素晴らしい文章でなんとかスムーズに乗り切る。向こうも向こうでさすが一流。3コール以内に電話を取るのはまず基本。それ以外にも、まるでうぐいすが鳴いてるのではないかと一瞬我を忘れるような美しい美声の美女の声。癒しを与える女神の声。

全ては完璧だった。もはやどこにも文句などつけるところはなかった。


もはやルンルンで。履歴書を書く俺。20枚くらい買ってきて。合計5つうけるアルバイトの履歴書を失敗爆発で書きまくる。

この一流ホテル以外にも、サンクスとかカラオケとか色々受けるんですけどね、もうそこらへんはどうでもいいや。とりあえず俺は一流って響きに酔いしれてるわけ。一流の男になりたいんですよ。

気がつけばHPの更新もできないくらいに履歴書書きまくる俺。


そして次の日、バイトに行くと俺はとんでもない言葉を言い渡された。

「ヒロくん今日は人足りないから多めに入ってね。」

「あ、はい。」

なんだ今日もかよ。なんでこのミステァードーナツって人足りてねぇんだよ畜生。とか心の中で愚痴りながらふと気がつく。


ちょっと待て、今日って一流ホテルの面接の日じゃねぇか!


全く持ってありえなかったね。いくらなんでも今回は酷すぎる。いくら人足りてないからって、一流になりたいと切望する俺の胸のうちを知ってか知らないのか、労働基準法ギリギリで働かして俺の夢をぶちこわしちゃうこの事件はほんとにありえない。

いやね、仕事は好きだからいいんだよ。全然仕事楽しんでるし最近は苦にならないね。仕事は生きがいだから、けっこう俺って青春してるなぁって一人浸ってることだってあるんですよ。けど休みがほとんどないんですよ。もうね、シフト入れた時間以上に時間帯組み込まれてるし。

そう、そこはまさに人のたりていない労働者には過酷すぎるバイトだったんですよ。

冬休みなんか何回「俺もめっちゃホリデーしたいよぉぉぉ!!」って苦悩の叫びを上げたことか。息をつく暇も無いくらい休みが無い。残業なんかしょっちゅうあるし。それでも人は入ってこない、こんなに儲かるバイトなのに。学生でありながら13万とか稼げてさり気に源泉徴収で3000円とか引かれちゃうような笑いが止まらないバイトなのに、誰もきやしねぇ。そうか、やっぱあれな。刈上げが嫌だと。

俺はそれでも黙り続けた。どんだけ休み無くても黙った。ってか休みいらないってのが俺の中のフリーター信念であって、みんなにも休みいらないってちゃんと言ってる。人の足りていないこのバイトでは俺って人材はマジで使いやすいと思う。毎日フリーな時間に入れるからね。

だがしかし俺も一人の人間。一人のフリーター。だからこそフリーターとして健やかに美しく生活できるように最低限のアルバイトをしなくてはならない。だからこそ掛け持ちなんかごく普通。しかしこのバイト先はなんだ、沢山バイトに入れるが他のバイトはするなとそういいたいのか?

許せないね。ここは一流のヒロさんが、いっちょバリバリとシフト係りのお姉さんにこの胸の怒りの濃い部分をしこたまを訴えてやる。今日はわけあって残業できない次第でありますってきっちり言ってやろうじゃないか。女に負けるほど俺は柔じゃねぇ。俺の凄さを見せてやる。


「すみません。」

「ん?何?」


よし。すみませんの段階ではとりあえず俺が押してる。この勢いでいっちょ責める。責めて責めて俺も自由という名の一番星を己の広い心の夜空でさんさんと輝かせてやる。俺は言っとくがマジだぞ。

さぁシフト係りのお姉さんよ。俺にひざまずくが良い。ヒロさんすみませんでしたとひざまずくのだ。アッハッハ。


「今日は訳あって残業できないんですけど。」

「・・・却下。」


な。なん、なんだと!貴様正気か。この俺がわけあって残業できないって言ってるんだぞ。この俺に訳があるんだぞ訳。コレがどれだけ重要かわかって言ってるのか!

俺みたいな凄い男が「訳」って言葉を使うのだ。もしかしたらアメリカのケネディから裏任務でどこかのスパイになって裏組織のアジトに浸入しなくてはならないとかそういう類の大きな「訳」がついてるかもしれないぞ。俺みたいな男だから、もう暗黙の了解で認知してくれてるとそう俺は思ってたのだがが。

どうやらあなたとはまだ心が通じ合えていないようだ。心と心が交じり合えてないようだ。もっと深く、例えるなら男と女の愛の燃え上がるセックスのような熱くディープな友情と言う物が俺たちには必要なわけだ。

それが通じない?ならば俺は一発ガツンといってこらしめてやろう。


「今日面接なんです。深夜のバイトきっちりきめt・・・・」

「あん?今日面接だ?そんなのまた今度にしてもらいなさい。フリーターに時間強制する資格なんかねぇんだよ。第一なにあんたすかして他のアルバイト受けようとしてるの?うちだけでいいやんかうちだけで。人いないんだからせめて3月いっぱいはあんたに悪いけどコキ使わせてもらうよ。」


「え、じゃぁ・・・あの。あと何人人が入れば俺は他のバイトできるのでしょうか?。。。。」

「そうね。5人よ。あんた5人つれてきなさい。5人つれてきたら他のアルバイト受けさせてあげる。今の状態で他のアルバイトは無理ね。来週の月曜日なんか4人しかいないのよ。このままじゃ休業やで。わかってるの!?わかってたらつべこべいわなーい。ってことで却下ね却下。残念ねぇ。。」


猛威を振るったのは、俺だけじゃなかった。


「あ、N中くんお疲れ様。そうそうN中くん、来週の月曜日の休み却下ね。」

「え、マジっすか?あの日はちょっと困るんですけど・・・」

「休みなんかちゃんと水と木の2日いれてあげるから、その日に遊びなさい。ね?休みの日なんかいくらでもあたしが作ってあげるから、フリーターは自分で時間強制しようとするな。とりあえず月曜は出勤ね。残念だけど。」

「マジで遊ばせて。この日だけでも・・・」

「却下。そんなんいわんとお願いや。ってかその日は入る以外選択はないから。あんたに選択権はないの★絶対入れ。絶対入れ絶対入れ絶対入れ。もう命令ね。あんたいっつも好きな時間に入れてあげてるやんか。いいやんかだからこの日くらい。」

「却下とかマジありえない(涙)」

「いいやんか。入ってや。この日人いないねん。ヒロ君も入るって言ってるんだしね、N中君も入りなさい。いいでしょ。」


このバイト最強を誇る女恐るべし。ここまできたらもはやシフト帳を提出する意味などどこにもない。かわいそうだがこのN中先輩もおそらく強制的に参加となるだろう。折角のデートなのに残念だったな。N中先輩。

冬休みに「俺もめっちゃホリデーしてぇぇぇぇぇ」って叫んだあの日に気がついておくべきだったのだろうか。いや、あの時点でもう後には引けなかったはず。あの時点で俺はもうすでにシフト権を全てあの姉さまに明け渡していた。俺は年中暇とそう決められていた。


しかしよくよく考えると、こういう一番バイト先で強い人がシフト係りをやることによってこのバイトはアル意味均衡を保ててるんじゃないかって思うんですよね。

もはや店主すらもその地位が危ないとされる勢いのこの姉さま。この人がいるから人が少ないにもかかわらず毎日休業せずに店を続けれるのであろう。彼女のおかげだ。

結局俺はバイトの面接5社全てにあやまっておきました。バイトの面接は辞退すると。受けることはできないと。

今月いっぱいくらいはこの姉さまについていくかな。ヒロさんみたいに海よりも深い人情なんかを持ち合わせているような人間にはね、もはや断る理由なんかない。まるで寅さんじゃないかといわれたこの人情が。

でも悔しいなぁ。一流。めっちゃ悔しいって。

泣きながら愛車にまたがりエンゼルクリームを食べる俺。手をベタベタにして涙に浸りながらビュンビュンスピード上げて家に帰ったと。もうね、マジで悔しかった。ありえないくらいに悔しかった。

この日食べたエンゼルクリームの味は忘れない。その甘さの分だけ、悔しさは募るばかり。

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