じっちゃんの名に賭けて

2003/02/18

事件はその日の昼おこった。

「ちょっと!これどういうことなのよ!」

謎のババさまがうちの店くるなり怒涛の勢いで怒りの暴言吐きまくる。。

俺はミステァードーナッツで働いてるんですけどね、割と平和な職場と平和主義なお客さんばかりで事件なんてなにもおきない。本当に平凡な毎日なんですよ。

だからこういった怒りババの襲来は刺激の無い毎日な俺には衝撃だったんです。俺の平和を返せとこっちが怒り狂いたいよこのババァ。

「あんたねぇ!このまえドーナツ注文したんだけど、3つ入れ忘れてたじゃない。返してよ」

顔真っ赤にして物凄いパワーでガミガミと怒るババさま。関西のオカンだねぇ。日本の母ってのはこうでないとと俺は思うよ。たかが300円程度の損害かもしれないけど、その300円が家計をリアルに圧迫するわけですよ。

バームクーヘンみたいな顔の怒りのババはね、やっぱいくら300円くらいとはいえそういうミスをするのが許せないんですよ。バームババの怒りの逆襲なんですよ。

それはそうとおかしいですねぇ、ミステァードーナッツのドーナツ入れ忘れなんてありえないんですけどねぇ。どうやったら入れ忘れるか俺が聞きたいくらいだよ。

第一入れ忘れてると思ったら、詰め込んでる時に言えっつーの。これだからこういう硬派なバームババは許せないんです。

まぁでも、今回手違いを起こしたのはあきらかにこっちの責任っぽいし、詰め忘れとかやってはいけないことだし、こんかいはミステァードーナッツの全ての社員に代わって謝っておこう。ゴメンナサイ。

「申し訳ございませんでした。」

マニュアル通りに謝る俺。マニュアル通りに。ミステァードーナッツのセールストークってのは緊急事態でも全部セリフが用意されてるんですよ。どんな場合でも何を言えばいいかちゃんと用意されてるんです。

ちなみにこの場合は「申し訳ございませんでした」といいながら45度ほどおじぎをするんです。決められてるんですよ全て。

「返してくれるの!早く言ってよ!」

怒り狂うバームババ。荒れ狂うバームババ。もはや誰にもバームを止められない。

「どちらのドーナツでございますか?」

怒りマックスで、赤を通り過ぎてどす黒く変色したバームババに言い払う。

「ポン・デ・あずきよ!」

ほほう、新製品の「ポン・デ・あずき」か!全国のミステァードーナツがこの商品を売ろうと今必死なんですよ。はっきり言って戦争だねこれは。

とりあえず少しでもいいからこの商品を売らないといけない。だからまとめてお得な値段とかで売ってるんですよ。5個とか6個のセットで。原価スレスレの痛いげなお値段で関西のババァ相手に奮闘してるんですよ。

だから3個入れ忘れとかマジで有り得たりしそうなんですよ。みんな6こ7こ。凄い人は20個くらいセットにしてお安く買って帰るわけですからね。家計を圧迫してスマンよバームババ。本当にすまなかった。

「いつごろお買い上げになりましたか?」

そういうとバームババ即答。

「土曜日の夕方よ!15日の土曜日よ!」

死ねババァ。30回は地獄に落ちやがれこの犯罪女め。俺はオメエみたいな腐った女が大ッ嫌いなんだよ。

土曜日だ!よくもそんなに堂々と言えたな。土曜日はまだ「ポン・デ・あずき」発売してないんだよ!まだまだ甘かったな!

バームババよ。新製品を食べたいと切望するあんたの深い信念はわかった。よーくわかったよ。たかがドーナツ3つに100人斬りとかやってそうなAV女優のオマンマンみたいに真っ赤に顔張り裂けんばかりに充血させて怒り狂ったんだからな。大の大人があんなみっともないこと普通できない。

けど爪が甘いよ!全然甘すぎる!もっとそういうことはきっちり調査しまくって発売日の一つくらい計画の内に入れとこうよ。そんなバレバレな犯罪ありえないって!

やっぱね、こういうインチキな犯罪は全て完全犯罪に終わらして欲しい。たとえばレシート偽造のひとつくらいしてさ、誰が見たってああおまえは全然間違ってない!あんたは正解だよって言われるくらいに正当な完全犯罪がいいんですよ。

IQ審査では128ってでていいのか悪いのかよくわからないがとりあえず昔はやったたまごっちに出てくる「みみっち」よりちょっと悪かったかなってくらいの俺の頭に、もうちょっと劇的振動が欲しかったんですよ。胸がドキドキしてこの犯罪俺が解いてやるみたいな闘志を騒がす揺ぎ無い熱意と魂の犯罪を。

バームババは笑うんですよ。クククっとすすり笑うんですよ。「誰もあたしの犯罪は解かせないわよ」っとかいいながら、それを俺がね「このサギ事件絶対に俺が解いてみせる、じっちゃんの名にかけて!」くらい言わせて欲しいんです。正直そういうイベント待ってるんですよこの人生17年間。

マジありえねぇ。このバームババありえねぇ!がっかりだよ。

完全犯罪をする。それを俺が解く。「ヒロさんすごーい!」っとか言われてバイトの女の子にモテる。「ヒロ君よくやってくれた。」とかいいながら店主さんが俺を表彰して時給アップ。人生ウハウハ。こうなって欲しいんですよ。常日頃からそんなイベントないかなぁーとか思ってるんです。

それがなんだ、小学生でもわかるような簡単な嘘つかれてもねぇ。もういい、もういいよババ。俺はオマエから何も望まないぜ。警察に突き出されたくなければとっととかえりな。

「お客様、レシートを拝見させていただいてよろしいでしょうか?」

ふふふ、レシートなんか無いことくらいわかってるんだよ。なんせ当日レジの中に無かった商品がレシートに打たれてるなんてありえないからね。年貢の納め時だな、さぁ警察に行きたくなかったらここで諦めて家に帰って芋でも食って屁こいて寝やがれってことです。

第一レシートが無いとこういうドーナツの引き換えはダメってきまってるんだよ。レシートも無いのにドーナツをクレって言うやつの方がおかしいって法律でもそうきまってるんです。法律相談所とか持っていったらみのもんたが犯罪!って言ってくれるんです。弁護し出てくる前からみのもんたが犯罪って決めるんですよ。

そもそもね、あんたみたいなバームクーヘンみたいな顔した糞ババにね、タダで食わせるほど安っぽいものじゃないんですよ。一つ一つ綺麗にカットして、粒アンを職人の心込めて一つ一つに魂を注いでるんですよ。そんな職人の熱いスピリッツをですね、充血マンマンなバームババにプレゼントされるほど世の中うまくできてない。こういうところで神様はちゃんと見てるんです。

「レシート?そんなの無いわよ!」

どうやって確認したって言いたいのだバームなババよ。あんたさっきたしかに土曜日にポン・デ・あずきを買ったと言ったじゃないか。その証拠がないのにどうやって確認したといいたいのだ。あん!アンタはもう追い詰められてるんだよ!白状しろやババァ!

おっとイケネェ。キレちゃいけないよ。キレたら負けですよ。キレたら俺が逆に悪いみたいですよ。落ち着きあってこそ真の推理ができるんですよ名探偵は。

「レシートが無ければお引き換えできません。申し訳ございません」

こういうババってのはね、理論とかそういうのはもう通用しない。怒りに任せて相手をひるませてドーナツ奪い取ろうとか考えてるババには証拠をつきつけようと嘘を暴こうと関係ないんです。

小心者なヒロさんはですね、こういった勢いだけの攻撃にはすぐ潰されてしまうのですが、今回は潰れません。なんたって決定的な証拠がありますから。この女は犯罪者だという決定的なものが。

「土曜日に3個入ってなかったのよ!入ってないものを貰って何が悪いのよ!」

ごめんね、バームババさん。そんな風に切実に怒りたい気持ちはすごくわかるんですよ。

俺も一度@ニフティのサポートセンターに責任のなすりあいで10回くらいたらいまわしされた挙句9時過ぎて終了とか言われた日には完全に怒りMAXだったんですわ。次の日サポートセンターで一言目に言った言葉は「オメェら全員死ね」でしたからね。

結局一週間ネットは繋がらなかったんですけどね、その時俺は悟ったんですよ。例え@ニフティのサポートセンターに「ここは専門外なのでここに電話してください」ってナン十回も言われてたらいまわしにされてもね、怒っちゃいけないもんだなぁって。

怒ったらそんなもんまともに対応してくれるサポセンの兄ちゃんいないですからね。ようはテンションなんですよ。「あ、この人だったらネットつないであげようかな!」なんて思うようないい人を演じるんですよ。そしたらその場で即繋げてくれますよ。俺実際そうだったから。

だからね、ババさまもそんなにガツガツと怒らずに、落ち着いて俺とお話しましょう。まるで恋人同士が囁くかのごとく語り合ったらね、ああ俺はなんでこんな単純なことに熱をあげてたんだ!ああ俺はなんてバカだったんだ!ゴメンねおばさん!ドーナツ好きなだけもってっていいよ!ってな感じになるんです。

「もういいわ!」

怒りのバームババァ。開き直って帰る。こういうババァはいつになっても己の罪に気がつかないんですよ。もしここで「すみません、そのドーナツの発売日は17日の月曜日だったんですよ。だからあなたが言ってることは嘘であって、サギっていう立派な犯罪なんです」って言ったところで本社に「あのお店は人の人権を無視する最低なお店ですわ!」って怒りのメールの一つでも入れるとこだろう。更正する余地無しですね。

そこで俺はまた悟ったりするんです。世の中何が正しいかなんてきめつけるものじゃないなと。

やってることはたしかにサギなのかもしれないですけどね、結局それを正しいと思ってやってる人もいるんです。俺たちの目からみたらけっして正しくないかもしれない、でもそれって結局「サギをやることは正しくない」っていう固定観念の価値観の中で育った俺たちの意見なんですよ。

このババさまはサギの一つくらいこのサバイバルな世の中渡っていくには普通のことであって常識なのだとそういう価値観のなかで育ったんですよ。「サギは正しい」と。

だから俺はお店の損失を止めるためにはサギを止める。けどもし身の回りでサギをやるようなやつがいたら見てるだけの人間でいてやろうかと。俺にサギは悪いと決め付ける権利はない。それが自分の息子だったら絶対に止めてるけど、他人の価値観かえるほど俺も立派に人生生きてるわけじゃないし、今は黙ってみてやろう。

このおばさんもそうだ。店の損失だというなら俺は黙っていない。もう来るなという勢いで止めるが、もう一生サギをするなと更正するつもりは無い。勝手にやっててくれとほったらかしてしまう次第である。


HOME