バターラーメンの秘密

2003/01/24

以前ににも日記なんかで語ったんですが、うちの親戚たちとは年に一回しか顔をあわせない位のマイナー的関係なんですよ。だから正月に顔を合わせなかったら永遠に会わない仲。たしかに会っても会わなくってもどうでもいい。

それに何が嬉しくて自分と同じ顔の集団と戯れなくてはいけないのだ。俺がいっぱい戯れているところを他の人がみたらきっと恐怖すらも感じたりするんだろうな。こんな顔の集団が。

まぁそんなことはどうだっていい。俺の顔をけなし始めたら小6時間は語れるからこれ以上は語らない方がいい。本題に入るんだが、この俺と同じ顔をした親戚集団で、せっかく正月で集まったのでそのままスキーに行っちゃおうなんていうありきたりな家族サービス話が持ち上がったんです。

うちなんかはまぁそこらの家庭と比べたら明らかに家庭サービスという言葉に程遠い家庭だったんで、オヤジも年に一回くらい家族サービスでもしようってことで結構なノリ気になったんです。

そりゃ当然の如く一番下の妹はめっちゃ喜んでましたよ。マジでこのクソガキ妹はこの冬休みクリスマスすらも一歩も外に出ないで、父も母もいない家で一人で遊んでたんですからねぇ。普段なら俺も「高校生にもなって家族サービスなんかに付き合えるかよ」とか言って計画潰しに励むところなんですが、なんせ1年ぶりともいえる家族サービスなんですから付き合わないと家族が逆に可愛そうに思えてくる。仕方ねぇよな。

でもってスキー行ったんですよ。もうみんなテンション上がりまくってリフトから落ちるなんていうイベントも発生したんですが、そんなのはテンションで消し去ってスキーという名の家族サービスを存分に楽しみましたよ。

俺はもちろん、スキーの鬼と呼ばれた男ですからそんなもん素晴らしい腕ですよ。なんせ中級者コースを最後までブレーキのみで強行突破を計るキャリアを持ってる俺ですから、もう誰にも俺を止めれやしねぇ。どんなコースもブレーキだけで滑ってやりました。

そんな楽しい一泊二日のスキー旅行も終わって、帰り道眠い目擦って高速道路に乗ってたんです。

マジでもう眠いんですよね。修学旅行の最終日とかはありえないくらいみんな元気なのに、こういう家族事の催しってどうも疲れる。同じ顔をした親戚一同はもう全く同じような顔で疲れを訴えるんですよ。もうマジで見てられない。

突然一人が言い始めたんです。「腹減った」って。そしたらみんなも続いて腹減った腹減ったって言っていくまさに親戚の息はピッタリ。同じなのは顔だけでは無かった。

ってな訳で途中のパーキングでランチタイムをすることにしたんです。しかしそのパーキングありえない。なんたってラーメン屋とトイレしかないんです。マジでありえない。

もっとこう、バリエーション豊かな物が欲しかったんですよ俺的に。餅とか焼きとうもろこしとか売ってれば、デッカイ建物があって仲には立派な食堂。しかし目の前には寒いのに暖房もかかっていないラーメン屋しかなかったわけなんです。

同じ顔の親戚一同は全員そろってそのラーメン屋に入ったんです。もうみんなマジで疲れきっていてメニューなんか見る体力どこにもなかったんです。しかしメニュー見ないとラーメンは来ない。

すると一番端っこの人が注文したんです「バターラーメン」って。

またバターラーメンとはマイナー商品。バターを落とすという極めて簡単な作業にして完成するトッピングラーメンでありながら、どこのラーメン屋もあんまり作って無いんですよね。バターラーメン

一人の人が注文すると日本人の特質なのか親戚の特質なのか、端の人から順番に注文を言っていくんですよ。「バターラーメン」って。

同じ顔した人たちが右から順番に「バターラーメン」「バターラーメン」「バターラーメン」って発音一つ変えずまるでドミノみたいに言っていくんですよ。同じ顔の親戚がですよ。マジでありえない。こんな姿もう見てられない。

俺も注文を終えて、再びメニューを見た時ふと気がついたことがあるんです。

バターラーメンと言えば普通親指大か、小学校の時に給食でついて来るアニマルチーズくらいのサイズのバターなんかをラーメン屋の素晴らしい技術を駆使して綺麗な四角なんかを作ってラーメンの中に落とすんですよね。

たったそれくらいのサイズのバターですよ。ただそれだけのサイズしかないそのバター。なのに値段が120円も違うんです。

いや俺は別にケチとかそんな意味で言ってるんじゃない。120円くらいでケチケチするようなオメェは小さい男なのか!って読者にキレられそうだが、俺はその120円をケチな意味で言ったんじゃないことを信じてくれ。たしかに120円もあればロングサイズのポカリくらいは買えるが、俺はそんなポカリが買えるその120円の高さを問い詰めてるんじゃない。

ただ、バター一切れに120円だぞ。120円だ!120円なんだぞ!普通高くても50円で済ませてラーメン屋もちょっと収入得る程度で終わらしてもいいくらいのところだが、120円。

このあきらかに適正価格の域を超えた値段設定に若干当時高校1年だった俺でもちょっと異変に気がついた。

もしかしたらこの店はラーメンを食った後にはセクシャルな女性がパンチィなんかをモロに見せて出てきて、みんなハーレムになってビール一杯に5万円払わせるような極悪ラーメン屋なのであろうか?120円のこのあきらかにおかしい値段設定。きっとビールは5万円だ。そうに違いない。

最終的ににはそのセクシャルな女性たちが勝手に注文を始めてどんどん会計が膨らんでゆく。バターが120円もするんだ。きっとビールだってギョーザだって全部適正価格の域を超えてるに違いない。多分ビールが5万円ならギョーザは150万とかするんだろうな。

最後はなんかこのラーメン屋のトップホステスなんかが出てきてドンペリドンペリ。いやラーメン屋にちなんでみそラーメン♪みそラーメン♪とかわけのわからないコールが始まって帰る頃には会計250万になってるんだ。絶対そうに違いない。例え親戚の家族サービスでも奴らは絶対容赦しないぞ。

もうなんか疲れた勢いで俺も混乱してたんですね。そんなこんなしてたらどんどんラーメンが完成して並べられるんですよ。一つ二つとバターラーメンが。あきらかに詐欺なバターラーメンが。

でもってよく見たらもっとすごいことに気がついたんですよ。作ったおっさんの指がモロにラーメンのツユの中を出入りしてるんですよ。おもむろに渡す時なんかに容器が傾いてその時ツユがおっさんの指を適度に絡めるんですよ。

いやもうなんかね。こんなドラマとかでしか起きないようなあり得ないようなことも起こるもんだと、怒るどころかむしろ感動してたんです。おっさんの指が汁に触れてる。マジありえねぇ

でもって俺と隣の従弟はワカメラーメンなんていう他の人とは違う洒落たものなんかをチョイスしたんです。このラーメン屋なかなかのラインナップでこういうマイナーラーメンがいっぱいあったんで俺もついついそのマイナーな香りに誘われてワカメラーメンなんていう洒落たもの頼んだんですよ。

どうやらバターラーメン担当はおっさんだったが、ワカメラーメン担当はおっさんの妻トミ子さん(仮)だったらしく、トミ子さんががモリっとワカメを山盛りに盛り付けて俺にサービスして届けてくれるんです。トミ子さんはサービス旺盛だし丁寧にラーメンを届けるんですよ。オッサンとは違う手つきで指なんかが入らないように丁寧に。

バターラーメン一族はみんなおっさんの指が汁なんかに入ってるのに対して、ワカメラーメン頼んだ俺たち2人はトミ子さんの愛に守られて清潔この上ないラーメンを召し上がることができるんです。ちょっと嬉しかったですよ。

だって小学校から中学校。掃除の時のゴミ捨てジャンケンなんかでは大抵俺が負けて、20円の駄菓子のジュースなんかを3人で買ったら俺だけハズレだったり、おみくじで一人だけ末吉だったり、色々あったこの15年の人生の中で薄々自分が「痛い系」である事実に気が付き始めてたこの時期に、よりにもよって当たりラーメンを食えるのだ。こんな素晴らしいことが俺の人生にあっていいのだろうか?

勿論食いましたよ。ワカメ沢山のってるそのラーメンを。指入りラーメンみんな食ってるんだろうなって思いながら一人ワカメを食ろうてたんですよ。・・・そしたらいきなり周りがいきなり訳のわからないことを言い始めたんです。

「こ、このラーメン。うまいぞ。」「・・・なんかすごくうまい」って。

ありえない。おっさんの指が入ってるラーメンなんか食う前からまずいってわかるじゃねぇか。しかしうまい!このラーメンうまい!ってみんな賛美してる。まるでこれが幻のラーメンと言わんばかりに。

そしたらだんだん旨そうに見えてくるんですよ俺の目にも。「ミスター味っこ」みたいにバターでラーメン全体が黄金に神々しく輝いてくるんですよマジでありえねぇ。

俺も思わず飲んだんですよ。そのオッサンが指突っ込んだ神々しいラーメンを。するとヒロさんの体に、とんでもない事態が。


ピキン(電撃の走る音)
「う、う、う、うめぇ〜〜〜」

なんだたかがバターが一切れ入っただけなのにここまで味が違うのか?バターだぞ。あの脂っこいバターが入っただけでこんなに美味になるんだぞ?ありえねぇよ。絶対おかしい。

きっとこれには他とは違う何かが隠されてるに違いない。このワカメラーメンとはちがう何かが。・・・・・・・・・・アレしかないよ。やっぱりアレしかない。

おっさんの指

あの一瞬だけ汁と絡めた瞬間におっさんの指から怒涛の勢いで美味パワーが流れこんだというのか?実はバターラーメンの120円というのは、バターの値段が120円というわけではなく実は、おっさんの神々しい指の値段まで含まれていたと言うのか?

おお。なんかそう考えたらこのラーメン屋のあきらかに適正価格を超えた品物の数々の謎が解けてきたよ。120円って全然高く無いよ。むしろ安い。こんな安いバターがあっていいのだろうか?

疲れに疲れきってたどり着いた山奥のパーキングエリア。そこにはまさに秘境ならではの素晴らしいラーメンがなんとも安い価格で提供されていた。

暖房も無いから店の中に雪が降る素晴らしい環境。テレビはほとんど砂嵐に近い状態。そしておっさんと奥さんのトミ子さん。この3点がそろってこそ初めて素晴らしいラーメンが誕生するのだ。山奥のパーキングエリア。そこはまさに秘境だった。

もしこんなボロボロでいかにも怪しげなラーメン屋を山奥のパーキングエリアで発見したなら、もしかしらたそのラーメン屋は伝説のラーメン屋なのかもしれない。すぐにバターラーメンを頼むといい。もしそこが本当に秘境ラーメンだったらすぐにわかるはずだ。



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