皆勤賞

2003/01/21

この話のあらすじを語り始めるとちょうど俺が高校2年の2学期になる。

俺は基本的に朝は7時40分くらいまでに学校に行く習慣がある。部活の朝練をやっているせいでこの時間にはどうしてもついてしまう。行くつもりも無くてもこの時間についてしまう。

中間テストでも俺は7時40分に学校とかに行くんですよね。朝練ないのに習慣で行ってしまうんですよ。朝起きるときはそりゃーもう大変ですよ。6時の10分前とかに目覚ましセットして始発かその次くらいの電車に乗って出発してましたからね。もう泣きそうだった。

その日もちょうど中間テストだったんです。しかしその日は化学と物理というありえないラインナップだったんですよ。もうありえなさすぎて徹夜で勉強してきてておまけに熱も38度ちかく出てたんで意識がおかしくなってたんです。いつ意識飛んでもおかしくない本当に。

家を出発して電車に乗り込んで。乗り換えて学校方面の電車に乗りました。フラフラになりながらも出発しそうな電車に走って乗って。

吐きそうになりながらも我慢して座ったんです。丁度右前には友人がグーグー寝てましたよ。やっぱり彼も俺と同じ徹夜という苦境を乗り越えてきたんだろうか。もう一生目覚まさないくらいにグーグーグーグー寝てます。

俺も徹夜+原因不明の熱でフラフラだったので瞳を閉じるのに時間などなかったんです。もうなんかごく普通に睡眠に入ったんですよ。可愛い女子校生ウォッチャーとかしないでもう純粋に眠りに入ったんです。しかしこの眠りが不幸の幕開けに。そしてこの後残りの高校生活にとんでもない汚れを残すことになろうとは思いもしなかったんです。

・・・目が覚めると俺は見たとこも無い場所にいました。周りを見たらもう木ばっかりで家とか一件も立ってないんです。とんでもないど田舎にいたんですよ。もうありえないくらいにど田舎で。

しばらく状況が把握できてなかったんですけどだんだん意識がはっきりしてきて薄々状況が飲み込めてきたんです。寝過ごしていると。しかもいつもの寝過ごし方とはもはや訳が違います。完全に違う場所にいるんだともうはっきりわかるんです。

今までの寝過ごし方はなんだかんだ言っても2〜3駅程度で全然学校のある駅とかの名残のある町並みなんです。2〜3駅だったら学校なんか余裕で着いてしまう。なんせ俺は7時40分登校だから余裕も余裕。ついてからお茶をすする余裕だってあるくらいです。

しかし俺がそのときいた場所はあきらかに別の町。いや町なんてものじゃない。森だ。森の中を電車が独走してるんです。周りに高校生なんて一人もいません。ジジさまババさまばっかりです。

ふと思い出したように右前の席の友達を見ました。当然そこにはいませんでした。俺に気がつかずそのまま駅を降りたようですね。俺一人電車を寝過ごしたと。

もうなんか恨む気にもなれませんでしたね。寝てて寝過ごしたのは100%俺が悪いし、友達には俺を起こす権利なんて何にも無い。っていうよりむしろ友達は俺に気がつかないまま電車を降りたんです。完全に第三者そのもの。誰も彼を責めたりできない。

そんなこんな色々なことを考えていると駅に到着しました。とりあえず降りたんですが、あまりにもど田舎過ぎて駅の時計が見当たらない。しゃあなしに自分の携帯の画面を覗き込んで・・・鳥肌がたちました。

8時10分ってうつってたんです。なんせ電車を乗り換えてからこの電車に乗ったのは7時15分。一時間も電車に揺られてたんです。っていうかもう遅刻ですよね。確実に。

回りは大きな岩壁があって家がポツポツあって。なんか畑とか木とかが沢山生えてて完全な田舎。とたんに俺は腰をくずしてへたりこんでしまいました。「・・・イヤだ。遅刻なんてイヤだ!!」

この1年半遅刻すらも一度もせず皆勤をずっと守ってた俺です。辛かったですよ一時間半の通学時間毎日かかさずして。思い出せば思い出すほど辛かった思い出ばかりが出てきます。

俺ははっきり言って学校はあんまり好きではありません。机に張り付いて勉強するこの塗り固められたようなやりかたが大ッ嫌いでたまりません。周りには一応金はらって学校行かせてもらってる訳ですから「学校楽しいよ!」とか「学校いけて嬉しい」類の良いコちゃんみたいな顔をして喜ばせています。

しかし現実は全然イヤです。大ッ嫌いな学校。それでも無理して1年半一時間半も皆勤突き通してきたんです。半泣きでした俺は。まぁどうせ誰もいない駅なんですが。

さすが田舎。なかなか電車が来ないんです。しばらくしてやっと電車がつきました。しかしこんなど田舎な駅にまで特急が到着するんです。田舎の度の濃さを物語ってましたね。

田舎の特急に乗って出発。もうありえないくらい遅いんですよ田舎の特急。何を朝からそんなにトロトロ走る必要があるんだ田舎の特急よ。俺は一刻を争ってるんだよ。

だんだん田舎から離れて学校へ向かっていくその時間。俺は当然と言わんばかりに居眠りなんかできませんでした。こんなに遠いところまできてしまったんだと、乗っている時間それはそれは普通の精神状態じゃいられませんでしたね。ずっと下見て半泣きな自分を抑えてました。何故か泣きそうだったのを憶えています。

しばらくして学校のある駅に到着しました。ドアが開いたとたんロケットスタート。光速で走りはじめました。

駅の時点ですでに時間は8時40分。HR開始時刻でした。ここから学校までは上り坂30分の道のりです。なんとか10分で登ったら。なんとかなるかもしれない。

38度の奇病なんかもうどっかにいってしまった。疲れなんか全然沸き起こりやしねぇ。完全にフルスピードのまま通常30分かかる登りの登校坂を走りきりました。

学校に到着しました。8時51分に。チャイムがなってテストが丁度1分前に始まったところでした。くやしくてたまらなかった。本気で。なんでいつもクラスで一番に到着してたような俺がよりにもよってこんな形で教室に到着しなくてはならないのだ。

教室の扉を開きました。・・・同時にクラス全体から笑いが引き起こりました。ベロ出してハァハァ言いながら犬みたいに息切らせてる俺の姿はもはや笑いどころにしかみえなかったのでしょう。それでもベロだしてしばらくハァハァハァハァってところでしたよ。

半場赤面ツラしながら自分の席に座りました。とたんに奇病の38度が襲ってきて再び目の前が半分暗く映ってきました。先生が俺になんか言ってます。おそらく「本当だったらオメェにさせるテストなんかねぇんだからな。」っていう教師定番のセリフでも吐いてくれてるんでしょう。しかし意識もうろうとしている俺にはもう何を言ってるのかさっぱりわからなくって。

とりあえず「はい。」とか適当な返事を返して教師を促しました。しばらくしてテスト用紙が配られて俺もテストを始める。「(・・・なにこれ。全然わからねぇ・・・・)」本格的に何書いてるか全然わからないテスト用紙。俺がバカなのかテストが難しいのか。意識が薄くなっていたのでしばらくしてすぐに俺は寝てしまいました。当然結果最悪なんですが。

この日俺は完全に遅刻だと思ってたんです。そしたら人のいい教師。ベロはぁはぁさせる俺の姿にさぞ同情したんでしょうね。「出席」ってついてたんです。マジでありがたくてすごく感謝しました。しかしこの遅刻。はっきり「遅刻」にしておくべきだったんです。今思えば。

時は変わって昨日。卒業の9日前。あれから残りの1年半俺は皆勤を突き通してきました。いわば3年間皆勤。卒業式では皆勤賞貰える身分です。

HRで先生が皆勤者の名前を読み上げていきました。当然俺の名前も呼びあげられるんですよ。普通だったらもう名誉的なツラして偉そうに優越感に浸っているところですが、どうしてもあの日の遅刻が俺の心のどこかに残ってて素直に喜べませんでした。完璧な皆勤では無いんですよ俺は。

名前を呼び上げたあと先生が言います。「間違いがある人は先生に言ってください。」そしたらクラスのバカ集団どもが言うんです。「コイツ始業式来てません。」って。バラして楽しみ始めるんですよ。自分たちは進学すらも怪しい出席率なのをいいことにドンドンバラしていくんです。

その始業式来なかった彼も3年間皆勤になるはずでした。しかし3年の最後の3学期の始業式に来なかったが故に皆勤は潰れました。世の中って無情な物です。しかし先生も見逃したのか黙って出席をつけてくれてたんです。

担任ってふつうに嫌われる物ですよね。この先生も普通に、ごく普通に嫌われた担任でした。いっつも「先生また忘れたんですか!」って生徒にナメた態度で責められる。忘れ事が多い先生なのでよくこんなこと言われて生徒にキレられてました。

しかし今回のケースは明らかにそうでもなさそうでした。あきらかに見逃せそうなギリな人ばかりをピットアップしてたんです。いつもの明らかに違った忘れごととは領域とは違います。もし本当に忘れてて皆勤にしてたなら間違いなく卒業危ない出席率のバカ男を皆勤にしてたところでしょう。しかし今回はスレスレな人ばかり。

この学校は割かしアバウトなところがあるんで、一日くらいの失敗も「ミス」でごまかすことくらい安易だったんでしょう。しかしごまかす先生も勇気いるでしょう。なんたって普通の学校だったら許されない行為。

正直な人は自分から言いました。紙の上ではたしかに皆勤なんですが、ちょっとだけ遅刻した日があったと言うのです。彼はおそらく自分はもう皆勤じゃないとわかっていて学校に来てたんでしょう。しかし皆勤になっていた。正直者な彼は正直に言ったと。

もちろん俺も怪しくなってくるんです。案の定言ってくれましたクラスのバカどもは。「ヒロっておめぇテストの日遅刻したやん」「なんやお前もしかして、遅刻しても皆勤取ったとか言って自慢してくる気か?」「せこいぞヒロ!」

もはや何も言えません。バカどもの言ってることは本当のことなんですから。しかし残りの1年半も皆勤だと思って登校していた俺にいまさら解禁じゃないという言葉は受け止めることのできない悪言でした。

何を考えてるのか頭のおかしいバカ集団どんどん俺にヤジを浴びせていく。「ヒロキモイねん!」「そうそう!死ねやオメェ」

調子に乗ってムリムリとヤジを浴びせていきますよ俺に。先生がそこで止めに入る「ハイハイストップ。さて他に皆勤じゃないって人はいるか?自分で言ってやー」

誰も手を上げませんでした。ちなみに俺以外にもズルがもう1〜2人いるらしいですが俺には関係ないのでこの話はやめときます。

そりゃもうずっと悩んでましたよ。授業とか受ける気にならないですから。まぁ授業中に知恵の輪して暇でも潰してた身分で偉そうなこといえませんがノートほとんどとってませんでした。(元々オメェはノートとってないだろ!ってツッコミは無し。言っちゃダメ。)

そんなこんなで5時間目の体育の授業までやってきました。そしたらテンション上がってまたあのバカ集団の野郎たちが俺のところに来て言うんです。「そうやってセコいことまだ突き通す気か?」でもってイジメの典型的なパターンみたいに自分ひ一人では何にもできないかわいそうなバカ集団の野郎ちゃんたちが俺にからんでくるわけですね。

高校三年になっても未だ中学生が抜け切れていない彼らと話をしても無駄だろうから俺は適当に交わすんです。「無いよりあった方がいいだろ皆勤賞は」って。本当はけっこう悩んでたりするけど絶対話しても無駄だしね。だいたい「そうやってセコいことまだ突き通す気か?」ってそのままキミ達みんなに同じ言葉返せるけどあえてつっこまない。つっこんだら更正されるような彼らじゃないですから。

体育も運動のできないヒロさんには面白くないんで、「やる気ねぇのかテメェ」って言われない程度にある程度適当に終わらせて体育終了。体育なんか必要最低限やってればいいの。テンション高々にバスケなんか本当に運動のできる子はしないからね。(部活に響くとか言ってしないしな)

6時間目の最後。ついに決断しました。俺は皆勤を潰します。だいたい俺の友達が正直に言って皆勤を潰しまくってるのに俺だけズルを突き通すのははっきり言ってかっこ悪いでしょ?

そんなもんセコい政治家じゃないんだし、友達裏切ってまで自分の利益の皆勤賞なんかとるよりも、友達裏切らないで皆勤くらいポンと捨ててしまうのが一番。そっちの方がかっこいいでしょ男として。変に悩むよりかっこいい方が俺的にはいいと思ってるしな。ローソン入っても15秒ででてくるくらいの直球な俺が久しぶりに優柔不断になってちょっと焦った一日だった。マジでな。

先生に秘密で言いました。「俺皆勤潰します。」って。放課後に職員室行って。なんかそこでテンション一人下がってるのかっこ悪いし部活に直行して没頭しました。忘れようとして。今日は久しぶり、年内初めてくらいのバイト休みなんで今日は部活に行けるんですよ。形では引退になってるんですがね。

その日の夜、目覚ましをセットしないで寝ました。当然次の日、時間を見ればあきらかにヤバイ時間。しかし俺は学校に行くつもりは無かったので布団からでません。

自分の皆勤が潰れたことを学校で公にしてやるつもりです。言葉にするよりも行動に出るのが本当に一番だと思うんです。思えば家がお金なくて一年間フリーターが決定したときに真っ先に笑い飛ばしてくれたのはあのバカ集団でした。信念持って精進のつもりで髪型刈上げしたときも真っ先にすすり笑ったのは奴らバカ集団でした。

こうやって休んで皆勤を潰せば奴らもわかるでしょう。そこまで頭は悪くないはずですから。一応成績はいい奴らですから。クラスで頭のいい上層部階級の彼らですから。(ただし人間としての頭は最悪です)

朝起きて母が学校行こう!ってしつこく俺を説得してるけど全然俺は反応しない。すごい珍しく帰ってきた親父が俺に「友達の一つも失えないで世の中渡っていけると思ってるのか?人生甘く感じるなよ」って怒鳴り怒ってますが、「俺はそんな人生だったらイヤだ」ってキレかえす。俺みたいな高校生のガキに人生の何がわかるのかは知らんが俺はそんな生き方はしたくない。そう思ってる。

最後まで俺はおきませんでした。

この高校生活の3年間。勉強も常にクラスでワースト順位を維持すれば、運動も全然できなかった。部活だって副部長という役柄、3年になってからどんどんみんなに嫌われて。そのままフリーター決定して無理矢理部活やめさせられて。なんかもう残された皆勤という名誉すらも失って。

なんかありえない高校生活。なんにも残らなかった。残ったのは学歴。それでもやはりフリーターなんで全然関係なかったりするし。本当に無駄だったかもしれない。

しかし今から俺にはフリーターって人生が用意されてるんです。「将来の夢特にないなぁー」とか大学行って余裕かまして特に勉強もしないのにうつつぬかしてる奴とは少し違って(もし俺が大学行ってたらこうなってた)、行きたくてたまらない夢はあるが行けない。だからこそ全額自分で作って夢に向かってがんばってみたいと思ってる俺。これから刺激いっぱいの人生が待ってて楽しみ。はっきり行って今思えば適当な大学にいかなくてよかったと思ってる。(ただし目標とか夢もって大学・専門学校行ってる奴ならもう全然OK。そういう熱い男は俺大好きです)

高校の3年に何も残らなかった。けど今からまた新しい刺激のある楽しい人生が始まるんだ。なんかもう全然悔しくなくなってきた。皆勤の一つくらいでクヨクヨしてられない。

PS.文章読んでたらなんか途中に出てきたバカ集団に俺がいじめられてるように見えますが、誤解です。高校生ってどうもグループ的な物ができて仲のいいグループと仲の悪いグループがいるんです。そのバカ集団ってのは俺ととりわけ仲のよくないグループなんです。人を小ばかにして楽しむ集団は俺は嫌いです。


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